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年齢という面白み

2013年5月18日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 今月10日、エベレスト山頂アタックへ向けての最終順化トレーニングとしたプモリ山の高所キャンプからベースキャンプへ戻る途中、世界的登山家のラインホルト・メスナー(イタリア)と再会した。彼はエベレスト登頂60周年となる今年の記念イベントに招待されてきたという。
 メスナーは不可能とされていたエベレストの無酸素登頂を1978年に成し遂げ、さらに世界にある8千㍍峰14座すべての無酸素登頂だけでなく、これらの山々のバリエーションルートを次々と成功させた名実ともに世界を代表する登山家だ。
 20年以上前、父が世界の登山家と冒険家を一堂に集めて東京で開催したマウンテンサミットへ彼を招待しており、また10年前、カトマンズでのエベレスト登頂50周年の式典でも一緒になった。

 彼は辛口なことでも有名。10年前の式典では、エベレスト登山史50年の祝典でありながら、冒頭のスピーチでこう述べた。「最近のエベレスト登山には落胆させられるばかりだ。みんな想像力にかけている。ほとんどの人たちはノーマルルートにフィックスロープを張り、長蛇の列を作り山頂を目指す。これでは登山の面白みも神聖さも失われてしまう」
 そしてこう続けた。「しかし、その中で最もクリエイティブなチャレンジをした登山家がいる。それは日本の三浦雄一郎だ」と。めったに人を褒めることのないメスナーの言葉だけに驚かされた。

 近代登山は初登頂、バリエーションルート、無酸素、単独、アルパインスタイルなど、厳しい条件を付けた登山が評価される。その中で新しいカテゴリーともいうべきなのが「年齢」ではないだろうか。
 登山史において過去、難攻不落ともいえるいくつもの壁があった。しかし勇敢な登山家たちは、それを分析して計画を立て、戦略の中に取り組み、己を鍛えてこれらを乗り越えてきた。
 父も同じように、常に自分の肉体を分析し、体を鍛え、その時の体力をもとにエベレストの戦略を組み立て、70歳、75歳という年齢でエベレスト登山を成功させてきた。今回もメスナーは父に言った。「あなたはエベレスト登山に相対するためのパワーも頭脳もある。今回も必ず成功するだろう」
 メスナーも今年9月で69歳。父がまさに、これから相対する挑戦の意味を深く理解している。

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