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荷造りは登山の始まり

2013年3月9日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 エベレスト登山は大きく分けて2つのルートがある。ネパールとチベット(中国)ルートだ。しかし今年、チベットは中国からの入域許可が外国人には下りず、必然的に今年エベレスト登頂を目指す各国の隊はネパール側からのルートに集中することになる。

 ネパール側からエベレストに登るとき、首都カトマンズから山岳地帯のルクラに飛行機で飛ぶ。そこがエベレストベースキャンプに続くエベレスト街道の玄関口だ。しかしルクラには山岳地帯の斜面沿いに作られた滑走路が1つしかないため、空港にはせいぜい中型機くらいまでしか入ることができない。
 その小さな空港に、春になるとエベレストを目指す世界中の登山家が膨大な遠征資材や食料とともに現れる。そうなると空輸も荷揚げのポーターや牛属のヤクの手配も混雑する。
 だから、僕たちは必要資材をカトマンズに輸送する時期を1カ月前倒しにして、荷物を先行してエベレストベースキャンプに送ることにした。

 エベレストへ送る荷物の半分は装備と資材、残りの半分は食料である。僕たちの隊は日本から総勢11人で行く。機材と装備は事前に数や配置が決まっているために荷造りの量と内容は必然的に決まる。
 問題は食料だ。登山に活力を与えてくれる食料はないがしろにはできないが、あまりに多くを持って行っても輸送費がかさむことになる。
 荷造りをしている東京のベースキャンプには実際に持っていく3倍以上の食料が集まった。これらを吟味し余計なパッケージをはがし、リストを作る。この作業を延々と4日間昼夜兼業で行った。
 最後に荷物を箱に詰めるとき、重要なのは現地の状況を想定したパッキングを行うことだ。荷物を担ぐヤクは越冬直後であるため普段よりもやせている。通常だったら1頭につき60㌔はヤクの背に乗せることができるのだが、この時期はせいぜい50㌔以下だ。荷物はヤクの背中の左右に振り分けて載せるので、それぞれの荷物は1つ20~25㌔程度にまとめる。

 こういうことを考えながら装備や荷物の積み込みをしていると、ヒマラヤの澄んで乾いた山岳路に砂ぼこりを立てながら、ヤクが列をなして背中に積んだ僕達の荷物を運ぶ情景が目に浮かぶ。荷造りも、もう立派なエベレスト登山なのである。

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