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人類最古の足跡

2010年11月27日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。

 先日、2歳半になる息子と二人で実家のある札幌へ2泊3日の旅行をした。
 この時期の子供は主張が激しい。起きている間は遊ぶことをせがまれ、眠たくなるとぐずり、少しでも我が通らないと悲劇の主人公のように泣き伏せる。大変ではあったが、だんだんそのわがままがいとおしくなる。子供の笑い顔、寝顔、激しく変わる喜怒哀楽を見ているうちに心が和むのを感じた。
 僕は冒険家族の一員として子供のころから富士山、キリマンジャロ、エルブルース、北極圏など色々な所に連れていかれた。それぞれ過酷なところではあるが、家族がいるというだけで安心した。冒険に、助け合う家族の存在は重要なのだ。

 キリマンジャロ登頂後、アフリカ・タンザニア北部のオルドヴァイ渓谷に行った。この渓谷には人類による冒険のルーツの鍵がある。
 大地溝帯は大陸にできた大きな亀裂である。1000万~500万年前、マグマが地下からわき上がり、アフリカ大陸を2つに引き離し始めたという。亀裂の両側では大陸が隆起し、乾いた冷たい風が吹いた。大地溝帯の東側ではそれまで熱帯雨林だったジャングルが消えていき、今のサヴァンナは広がる。類人猿だった僕たちの祖先は木から下り、二足歩行を強いられたと考えられる。人類の産声が上がったのはまさに地球規模の大陸運動が関係している。
 大地溝帯に隣接しているオルドヴァイ渓谷からは僕たちの祖先とされるアウストラロピテクス・ボイセイが発見された。さらにこの場所から50㌔ほど南のラエトリ地方では、人類最古で350万年前の足跡の化石も発見され、オルドヴァイ渓谷の博物館にはこの足跡のレプリカが展示されているのである。

 その足跡は3つ。大きな足跡が2つと小さな足跡が1つ。北に進んでいた彼らは時折立ち止まり、東の火山を見てまた歩き続けたのだろう。特筆すべきはその足跡が慌てた様子もなく規則的に歩いていることだ。この足跡から、こんな想像をしてしまう。彼らは家族で、火山の噴火により移動を余儀なくされた。しかし、家族という安心感があるのか、うなり声をあげる火山におびえることもなく淡々と歩き続ける。新天地を求め歩む彼らはまさしく人類冒険の起源でもあり、その基本に共に助け合う家族の姿ありと、太古の足跡に思いをはせた。

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