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道具の特性 知ってこそ

2014年1月11日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 ニセコアンヌプリの頂上は激しい吹雪だった。しかし、山頂まで歩いてきたおかげで体は適度に温かい。最近のバックカントリースキー(スキー場管轄外)関連製品の開発は目覚ましく、こうした登攀(とうはん)もほとんどストレスを感じさせないように工夫がされている。
 バックカントリースキー用のバックパックにはコンパクトにレスキューに必要なシャベルやゾンデ棒(雪下捜索用棒)、シール(雪上歩行用テープ)が収まり、小さいながら登攀時にはスキーを装着することができる。また雪崩に巻き込まれたときに体を雪崩上部に浮かばせてくれるエアバッグも完備されている。
 スキーやビンディングも軽量化され、ストックも収縮自在、リズムとバランスがとれて、ちょっとしたエクササイズ気分で山を登ることができる。

 吹雪の中、スキーを装着してガイドがビーコン(無線標識)を確認する。ビーコンは常に電波を発信していて、もし雪崩に巻き込まれた場合でもビーコンを受信モードに切り替え遭難者を探すことができる。一昔前はこれらを扱うために特殊な技術が必要であったが、現在はデジタル化されていて遭難者までの距離と方向を一目で正確に導いてくれる。
 アンヌプリの山頂から北斜面に下りるが極度の視界不良で自分がまっすぐ立っているのかもわからないほど。しかし、ガイドは近くのわずかな地形を頼りに視界が開ける北西斜面に連れて行ってくれた。
 森林限界に近いその場所はダケカンバがところどころ顔を出しているが、誰にも踏み荒らされていない絶好のコンディションだ。スキーを斜面に向ける。ある程度のスピードをつけてターンのためを作り、それを開放すると次の瞬間ふわりと体が上がり、刹那の無重力感を味わう。次のターンにつなげるため雪面に柔らかく着地すると優しく僕の体重を受け止めてくれる。まるで雲の上で遊んでいるようだ。

 バックカントリーの楽しみが現在、世界中で広がっている。今回このキャンプを主催しているK2スポーツも昨年から今年にかけて関連の売り上げが米国で30%も伸びた。この分野の開発は目覚ましい。
 リフトを使わず山の中に入るのはスキーの原点回帰ともいえる。自然と相対するとき、完全に安全ということはあり得ない。しっかりと道具の特性を知り、自分の技量を高めることで世界が広がっていく。

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