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謙虚さと工夫、偉業生む

2015年10月3日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 9月、国内最大級の「第4回ウルトラトレイル・マウントフジ」レースが行われた。
 私の父、三浦雄一郎が名誉実行委員長を務めるこのレースは富士山の裾野の山間部を回る。168㌔にも及ぶレースで、今年の累計標高差は8337㍍。日本だけでなく世界からも集まり、その数は総勢1400人、46時間の制限時間の中、昼夜を問わず走り続けた。

 ウルトラトレイル・マウントフジの半分のコースを走るSTY(SHIZUOKA TO YAMANASI)というレースも同時に開催された。距離は80.5㌔、制限時間は20時間。総勢1000人が集まり、こちらも熱いレースとなった。
 そしてこのSTYの女子部門を制したのはなんと我がミウラ・ドルフィンズの社員である宮崎喜美乃(ノースフェイス所属)であった。彼女は鹿屋体育大学で登山の運動生理学の第一人者である山本正嘉教授のまな弟子の一人。大学院を経てミウラ・ドルフィンズに就職、現在、低酸素室のトレーナーとして働いている。おっとりとした性格ではあるが、毎日、真摯に業務をこなす。そんな印象しかない僕にとって彼女の今回の偉業には驚くばかりだ。
 聞いてみると、小学校1年生の時にマラソン大会で優勝し、お菓子をもらったことがうれしくて陸上に目覚めたそうだ。以来長距離を中心に活動、大学では5千㍍と1万㍍を主に走った。昨年、日本最古のトレイルラン、ハセツネCUPが彼女にとっての最初のレース。そこで11位、年代別では1位。その後幾度かトレイルランのレースに出場、表彰台経験を重ねて今回の優勝につながった。

 トレイルランは距離が長く山岳地帯の過酷なコースを走る。しかし彼女にとって「アスレチックのようで楽しいし、下りは爽快感がある」と言う。長いレースの中、辛いときは補給するためのサプリメントや行動食のパッケージに工夫をこらしている。
 「まけるな自分」「笑顔で走っていますか」などのメッセージを貼り付け、言葉を力に変えている。

 多くの分野で活躍する選手や登山家が三浦雄一郎の冒険理念に憧れ、集まってくる。彼らに共通しているのは「そうは見えない」ところである。謙虚さがあって、その一方で前向きさと努力、工夫を忘れず、いざというときにはすごい力を発揮する。これこそが一流になる条件と言えるのではないか。

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