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フリーライドの魅力

2019年2月23日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 先日、白馬コルチナスキー場で行われたジャパン・フリーライド・オープン(JFO)に参加した。フリーライドとは、バックカントリーエリアと呼ばれるスキー場管理外、あるいは場内でも圧雪のされていない複雑な自然の地形を残したエリアで行われるスキー、スノーボードの大会である。
 ライン取りの難度、エアとスタイル、滑りのスムーズさ、コントロールとテクニックといった項目が採点対象となる。エアは派手に飛べばよいというものでもなく、正確さ、スピード、ラインの創造性も重視する。間口が広いため、出身が競技スキーでもスノーボードでも、ライダーたちのルーツを問わず誰でも活躍できる可能性を秘めている。

 最大の特徴は下見のやり方にある。コース上でのインスペクションの機会が与えられず、出場者が事前に確認できるのはコースの周囲や下からの眺めのみ。実際に滑りながら、ほぼ初見で自分のラインを選びとる。地形を読む力、とっさの事態に対処する適応力、どんな地形や雪質でも滑ることのできる技術、見たこともない崖や障害物を飛び越える度胸、そういったオールラウンドな能力が試される。

 今回、僕は息子と一緒のエントリー。ジュニア部門が行われた初日は息子の応援に回った。面白いことに、インストラクターが出場者につきそってレクチャーをしてくれている。だが息子は自分でラインを決め、初めてのフリーライド大会をしっかりと、マイペースで滑りきったのだった。
 僕の出番は2日目だ。初めて出る大会、スキー競技のスタートゲートに立つのも久しぶりとあって緊張感を味わった。当日は40㌢ほど雪が降り、序盤は林間のパウダーを楽しんだ。終盤になって、さあジャンプをしてくれよと言わんばかりの形状の雪崩止めを見つけた。思い切って、15年ぶりにフロントフリップ(前方宙返り)をしかける。だが飛距離と高さは出たものの、さびついたタイヤのように回転がかからずにお尻から着地、スキーが両方外れてあえなく途中棄権。それでも観客と他のライダーたちは大歓声であった。

 現在、フリーライドの大会は世界に150ほどもあり、世界ツアーも存在する。僕のような元五輪選手もいるし、スキーやスノーボードフィルムで名をはせた人や次世代のスターもいる。どんな人でも同じ土俵で楽しめる。それが僕が感じたフリーライドであった。

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