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発見される工夫と努力を

2018年9月1日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 警察庁によると、昨年の山での遭難者は3111人、死者、行方不明者は354人で、いずれも過去最多に達したそうだ。山岳事故や遭難の捜索と救助は、金銭的にも高くつく。多くの場合、遭難者やその家族は1日につき百数十万円の費用負担を求められる。
 その負担額を登山家同士の相互扶助で軽減するのが日本山岳救助機構合同会社(jRO)だ。入会金2,000円で会員を募り、1人2000円の年会費と事後分担金を国内の山岳にまつわる活動(登山、ロッククライミング、スキー、スノーボード、マウンテンバイク、トレイルランニング)で発生した病気や事故、遭難の救助にかかる費用にあてている。補填額の上限は330万円。

 このjROの11周年記念講演会に先日、僕は講師として招かれた。そこで父の三浦雄一郎がこれまでに挑んだ冒険を紹介し、どのような安全対策を練ったかという話をした。強調したのは計画の重要性。頂上に着くまでの物資、人員、戦略を整えることである。僕たちは父の体力を徹底的に分析し、それを元にトレーニングを行った。体力測定の結果とともに、父の持病である不整脈や骨盤骨折の経過を慎重に見定めてトレーニンを計画し、繰り返し見直した。
 講演会の第1部でそういう話をした後、第2部では、実際にjROの派遣で救助活動をしている国際山岳看護師の中村富士美氏と都岳連救助隊副隊長の長谷川文氏が加わって、救助・捜索活動の現場についてのパネルディスカッションを行った。

 山の遭難では、救助隊がどれほど手を尽くしても助からない人がいる。大変なのは、行方不明のままの登山者を待ち続ける家族や関係者たちである。行方不明者は失踪扱いとされ、7年を経なければ死亡認定を受けられず、保険金も下りない。遭難者が一家の稼ぎ手であれば、家族は収入源を断たれたまま住宅ローンや保険料を払い続けなければならない。たとえ命が助からなくても、発見されることが重要なのだ。
 事前に登山届けを出しておけば、その情報は捜索救助の大きな助けとなる。現在は携帯電話の登山・地図アプリが発達し、登山届けをインターネットでも提出できる。捜索にはドローンも積極的に持ち込まれているが、まずは登山者自身が備えること。長谷川さんは「ブルーシートの青は自然にない色で、発見されやすい」と奨励する。遭難時に発見してもらえる工夫と努力をしてこそ周りの理解を得られる登山である。


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