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「極限スポーツ」の進化

2015年4月18日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 昨年、ソチ冬季五輪で平野歩夢選手がスノーボード男子ハーフパイプで銀メダルをとり、日本中が大いにわいた。平野選手の出身地は新潟県の最北端に位置する日本海に面した自然が豊かな村上市だ。
 その町に平野選手のお父さん、平野英功氏は廃屋と化した体育館にほぼ手作りでスケートパークを作った。僕は6年前にそこを訪れた時、その本格的なつくりとまだ幼かった平野選手のスケートボードの腕前に心底驚いたのを覚えている。

 今度の夏季東京五輪ではスケートボードが五輪種目になる可能性がある。平野選手はスケートボードとスノーボード両方でメダルをとることが夢だ。夏冬の2回開催されるエクストリームスポーツ最大の祭典、Xゲームが米国では有名である。
 スノーボードはウインターXとも呼ばれ、米国では冬の風物詩となっている。中でもスノーボード・ハーフパイプは人気がある。スーパーパイプと呼ばれるそのハーフパイプは高さ6㍍、さらにそこから上に4~6㍍ほど選手は飛び出す。地上から見るとその高さは十数㍍、そこで複雑な回転を選手が仕掛けるその様は数万人もの大ギャラリーを興奮させる。

 平野氏はこうしたエクストリームスポーツに大きな魅力を感じると共に、そこから生じる危うさに不安を感じていた。ハーフパイプは壁を維持するためにカチカチに固められる。極度の緊張と興奮に包まれながら選手はそこを飛び出すのだ。一つ間違えたら命に関わるような怪我をする可能性がある。平野選手が飛ぶとき、コーチとして、そして父親としての思いは複雑だったという。
 先日、関温泉スキー場(新潟県妙高市)で平野選手がトレーニングを行うと聞き行ってみた。そこはハーフパイプを模したジャンプ台があり、その着地点には巨大なエアバッグがあった。これは「バグジャンプ」と呼ばれるもので、選手が着地すると衝撃を吸収するようエアが抜ける仕組みになっており、思い切って新しい技に挑戦することができる。

 エクストリームスポーツはその初期段階では勢いや才能が重視される。しかし、スノーボードのように歴史を積み重ね五輪種目となり、技のレベルが高くなってくると、安全性が確保された中での技の積み上げが求められる。平野氏の思いと取り組みが今後のエクストリームスポーツの道を切り開くだろう。

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