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心ときめくヘリスキー

2012年4月28日日経新聞夕刊掲載されたものです。

 激しいローターの轟音、浮かび上がるヘリコプターを見上げるとプロペラの爆風によってつぶてのごとく雪が顔に当たる。刹那、ヘリコプターは獲物を見つけた猛禽類のように山陰へとダイブし、僕らを取り残して遠ざかった。目の前には静寂に包まれたはるか地平線まで続く白い山々が広がっていた。

 4月中旬、カナダのブリティッシュコロンビア州の北部と米国アラスカの国境付近に広がる山脈地帯、その名も「ラストフロンティア」(最後の未開拓地)でヘリコプタースキーツアーを楽しんだ。
 「ヘリスキー」と呼ばれるスポーツはヘリコプターの機動力を使って、大自然の真っただ中をバックカントリーで滑るスキーだ。北米ではロッキー山脈などで盛んだが、このラストフロンティアでは中でも圧倒的なスケールを誇る。コースタル山脈とスキーナー山脈の中心に位置するベースステーションから、滑走可能なスキーエリアはなんと東京都の4倍。そしてツアーで提供される総滑走標高差はエベレストの2倍(1万7000㍍)以上に及ぶ。

 ヘリスキーは日本人にはまだなじみが薄い。そこでプロモーション活動を兼ねて三浦雄一郎と僕が参加し、さらにツアーとして日本から知人も含め10人が同行した。平均年齢60歳の彼らはバックカントリースキーすら未経験者。そのため、このツアーに合わせて何度もスキー場に通い、オフピステ(スキー場外)を練習して、初めてのヘリスキーに心をときめかせて参加したのだ。
 夜の放射冷却で雪は乾いていると山頂でガイドが告げた。不安と緊張を胸に斜面を滑り降りる。雪はそれほど深くないが、彼らは慣れない自然環境でのスキーに四苦八苦していた。上部は20センチほどのパウダー、標高が下がるとクラスト、ブレーカブルクラスト、コーンスノーと雪質の変化に、スキーを操るのが精いっぱいのようだった。

 しかし、こうした雪質も均一に広がっており、一度コツをつかむと自由自在に山を駆け巡ることができる。彼らは3日間のスキーで見違えるほど上達し、最後はみんな鳥のようにカナダの山あいを滑り降りてきて「ヒャッホー」と雄たけびを上げた。
 この自然との一体感と冒険心こそ三浦雄一郎の若さの秘訣、ときめきである。スケールが大きいほどときめき力が輝くことを参加者全員が実感した。

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