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スポーツ遺伝子

2012年7月7日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 ほぼ毎年のように春にはエベレストベースキャンプ(5364㍍)からナムチェバザール(3446㍍)にむけて、42.195キロに設定されたコースを下る「エベレストマラソン」が開催される。最も高所で行われるこのマラソンの上位入賞者はほとんどが地元のシェルパ族で3時間28分というのが現在の最高記録だ。
 通常はエベレストベースキャンプからナムチェバザールまで早くても2日間かかる行程。最もシェルパ族に迫ったのは、日本人のトレイルランナー石川弘樹選手の5時間だ。シェルパ族は高所で非常に高い能力を発揮するためエベレスト登山で彼らのサポートをお願いする。

 それほどの資質があるのならば、五輪での活躍を期待してしまう。だが、ネパールは1964年の東京五輪以来、メキシコ五輪を除いて全ての夏季五輪に参加しているが、まだメダルをとった記録は無い。 
 考えてみれば、確かに3時間28分と言うのは5000㍍の高度では驚異的ではあるが、普通のマラソンで言えば市民ランナーレベルである。 
 シェルパ族の多くは富士山と同等の高いところで生まれ育つ。育った環境によって彼らが高所に強いのか、それとも遺伝的に強い要素があるのか興味深い点だ。調べてみると、高所の強さとスポーツの環境と遺伝に関する研究は意外な接点があった。

 ロンドン大学のヒュー・モンゴメリー博士はエベレストに登頂した登山家を調べた結果、登頂にはACE遺伝子といわれる遺伝子と関係があるのでは無いかと科学雑誌「ネイチャー」で発表した。
 これは「アンジオテンシン変換酵素」といって、動脈を収縮する働きと関係がある。スポーツにこれを当てはめると、動脈が強力に収縮するタイプの遺伝子を持っている選手は瞬発系、反対に弱いタイプは持久系とした。しかし、これはまだまだ議論の余地があるようだ。人種によってその強さを発揮するタイプにばらつきがあるからだ。 

 現在、僕は遺伝子について研究しているが、遺伝子がスポーツパフォーマンスに大きく作用する要因であるという考え方には懐疑的である。たしかに長距離、短距離等を得意とする分野はあるに違いないが、遺伝子は環境と複雑に絡み合い、その中に選手の意思も強く反映されるそうした選手の集大成の場となるロンドン五輪が楽しみになる。

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