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「悪ガキ」の挑戦は続く

2013年3月2日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 先日リステル猪苗代においてワールドカップ(W杯)が行われた。この中で里谷多英選手(以下、多英)と附田雄剛選手(以下、雄剛)の引退セレモニーが行われた。多英は長野五輪モーグル金メダリストであり、ソルトレイクシティー五輪でも銅メダルを獲得。多英を通じてモーグルを知った日本人も多いのではないか。雄剛は世界選手権で日本男子として初めて表彰台に上がり、W杯でも優勝を含め11度表彰台に立った。2人は名実ともに世界のモーグル界をけん引してきた。

 2人は1976年生まれの同い年でスキーとモーグルを札幌、テイネハイランド(現在サッポロテイネ)スキー場で始めた。同じ地元であることから、僕は彼らが小学生のころから一緒に滑るのが日課のようなものだった。しかし、モーグルは今ほど認められず、スキー場内にコブを作ったり、コース外にエア台を作ったりするため僕たちは「テイネの悪ガキ集団」といわれた。
 この悪ガキ集団が国内の大会を勝ち抜き、ナショナルチームに入り国際大会で成績を残すようになるとW杯に参戦するようになった。
 僕がナショナルチームにいた時、みんなは、長野五輪に目標を定めていた。
 この時、同じチームメートだった原大虎と2人で、長野五輪が終わったらその先、競技を続けるか否かを話していた。するとその時、雄剛が「モーグルは長野五輪が終わってからが本番だ」と言った。 
 長野五輪をゴールと決めていた僕たちと、それからがスタートだと考えていた雄剛とは根本的にモーグルに対する覚悟が違っていた。大虎と僕はほどなく現役から退いたが、雄剛はその後も成長を続け世界の舞台での表彰台に幾度となく立つ。その姿に、「こいつは自分の言葉を力にするのだな」と思った。

 その雄剛から先日、引退式に先立ち、引退表明を出したいという相談を受けた。その文章は自分の素直な思いがつづられていて、とても好感の持てるものだった。その中で黒人メジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンの言葉とされる「不可能の反対は可能ではなく、挑戦だ」を引用して、引退する自分の思いを表現していた。
 競技者として引退はしたが、これからの自分をこうした形で表現した以上、この言葉は雄剛の新しい挑戦に駆り立てたり、力になったりするのだろう。


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