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自然エネルギーと闇

2011年8月6日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 世界遺産の屋久島の電力はすべて屋久島電工という企業がまかない、日本で唯一、日本にある10電力会社の独占供給に頼らない島だ。
 一年を通じて降雨量が多い豊富な水量を生かした3基の水力発電所により島の電力のすべてが作られ、農協などの各組合が手分けして配電を行っている。電力については完全に自給自足している島で、原発とは無縁の電力エネルギーを利用している。
 ただ不具合もある。台風や防風などによる停電は多く、普段でも電力供給が不安定で十分な電圧が得られず、精密機械などの使用に影響するときもあるという。しかし島民は「いつものことだ」と言って、常に懐中電灯を身近に置いている。

 これで思い出すのがネパールだ。原子力や火力に頼らずほぼすべての電力を水力発電で賄っている。世界の屋根と呼ばれる山系には豊富な氷河と雨量がある。しかし貧困な国であるが故、この電力施設では国全体を賄うに至らず、震災後に日本であったような「計画停電」などは日常茶飯事。首都カトマンズでさえ停電になっても、みな慌てずろうそくの灯りで普通に生活している。

 最近の登山の電気事情は進化している。僕らは遠征時に気象状況の確認、日本との連絡やキャンプ間の交信のためにパソコン、衛星携帯、トランシーバーなど様々な電子機器を使う。電力供給は重要な登山計画の一部だ。過去の遠征では小型発電機を高所用に改造したものを使用し、ガソリン燃料や予備などを入れると100㌔以上もの重量をヤクの背中に縛り付けて運んでいた。しかし今は米国企業が開発した折りたためるソーラーパネル・パワーフィルムは最大60㍗の発電が可能で、それぞれのセルが独立しているため、少々破れても多少電力が落ちるだけで十分な出力が確保でき、軽く何より静かだ。

 テクノロジーの発展で遠征の電力事情は改善したが、さすがに夜間はソーラーは使えず蓄電容量にも限りがある。しかし登山家にとって暗闇は友となる。人工的な明かりがない夜空に宝石をちりばめたような星の輝きを発見し、満月時にクライミングをするとまるで白い太陽のように輝く月が神々しく峰々を照らし出す。風の音は心地良い子守歌だ。節電生活も、本来の自然のリズムの中で生きる楽しさを取り戻し、見つめ直す良い機会ではないだろうか。

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