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「キエーロ」の可能性

2013年2月6日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 昨年末、神奈川県逗子市のタウンミーティングに招かれ、アウトドアライフについて話す機会があった。会の終わりに平井竜一市長が、今後、住民に「キエーロ」を補助し活用することによって逗子市の生ごみ処理の負担を軽減する意向を話された。
 何やら面白そうなネーミングに興味を持った僕は早速、市長に尋ねると、「キエーロ」とはその名のごとく生ごみが完全に消えるという。そして開発者の松本信夫氏を紹介してもらった。

 これまで環境に良いとされる生ごみの処理の方法として、コンポスター(生ごみ処理機)やEM(有用微生物群)などを使って家庭で処理するやり方があり、葉山在住の松本夫妻もこうした方法で行ってきた。しかし手間がかかり、発生するにおいを完全に取り除くことができず、不快な思いをしていた。
 コンポスターやEMは最終的には堆肥として土に戻す。それならば最初から土に戻せばよいと松本氏は考えた。以前子どもが遊んでいた庭の砂場に生ごみを捨て枯葉をかけて、その上に透明なポリカーボネート波板をかぶせておいた。すると臭いも出ず、数日たつとゴミは完全に無くなっていたという。

 これがヒントになり現在の「キエーロ」が発案された。ベランダに置く小型サイズと庭に置く大型サイズがあり、その中に園芸用の黒土を入れておく。ごみを捨てるときはあらかじめ、ある程度の大きさにして、黒土に穴をあけてごみを入れた後、混ぜ合わせ、上から再度、土をかぶせる。すると数日後にゴミは無くなり、土の量も目立って増えない。驚くことに、コンポスターでは必要な水切りも不要で、油をそのまま入れても数日後には普通の土に戻り、においが発生しないため虫も寄ってこない。
 しかも完熟化すれば、園芸や農地に使用可能という。土には独自の植物連鎖、生態系があり、植物と細菌、菌、微生物の間で共生、寄生等複雑なやり取りが行われている。偶然にも松本夫妻が行った風通しがよく太陽光が当たる方法が土壌の微生物に生ごみを分解する理想的な環境を与えていたのだ。

 逗子市では年間10億円もの財政を16万トンのごみ焼却のために使っており、そのうち40%が生ごみだ。市長はキエーロが広く活用されることは地域に環境的、財政的なメリットがあると言う。世界的なごみ問題への回答がここにあるのではと思った。

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