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義足を翼に変えて

2013年2月16日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 スキーシーズンも中盤になるとスキー板が足になじみ、ターンの正確性が増してくる。感覚が広がりスキーそのものに神経がつながるようだ。先週のコラムで紹介した義足のロングジャンパー、佐藤真海さん(サントリー)とそのことについて話をした。

 陸上走り幅跳びの種目で女性として初めて義足をつけ、これまでパラリンピックに3回出場している彼女が装着するスポーツ義足は普通のものより硬くて強い。競技を行う時に加わる強い力にも耐えるためだ。こうしたスポーツ義足も年々改良され、現在ではカーボン製でより軽く丈夫なものとなってきた。今では義足側で踏み切るのが世界の潮流になってきているという。
 佐藤さんはアテネ大会、北京大会において義足とは反対側の左足で踏み切っていたが、チャレンジ精神旺盛な彼女はロンドン大会に向け、思い切って義足である右足で踏み切る決断をした。左足で踏み切るのと右足で踏み切るのでは感覚も大きく違う。
 義足での踏切にはより多くの神経を使い、筋力やバランスもそれまで以上に必要になったが、変化への恐れを捨て、自分を信じて練習を重ねた。そして以前の記録を更新するようになったのは大会の5カ月前、これまでの練習が実を結んだのだ。

 今では、彼女は全力で走り、踏み切りながら義足の先端をまるで自分の足のつま先のように感じることができるという。どのようにそうなったかと聞くと「地道なドリルの積み重ねで、(義足に)神経をつなげていった」。それは「イメージがとても重要だった」という。
 東京大学大学院薬学系研究科准教授、池谷裕二博士は脳の中にはそれぞれの役割を担う「脳の地図」があるという。これは先天的に決められているのではなく、かなり後天的な要素が強い。「脳の地図」は体と情報交換して必要な感覚であれば、それを発達させ「脳の地図」を書き換えることができる。

 三浦雄一郎は「スキーは足に付けた翼」とスキーを説明するときに言う。このイメージが足とスキーをつなげるのだ。佐藤さんも飛翔する自分の姿を、諦めずに何度も集中して描き続けることにより、義足そのものを「足に付けた翼」に変化させたのだ。人間が持つ可能性をパラリンピックの選手は示してくれる。

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