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経営者と冒険家の共通点

2014年9月27日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 先日、友人の紹介で長野県伊那市にある伊那食品工業を訪れた。伊那食品は寒天を中心に取り扱う食品会社で「かんてんぱぱ」の名前で有名である。
 本社は「かんてんぱぱガーデン」というガーデンの敷地内にある。ガーデンは広大な敷地で樹木や花が咲き、なんとも居心地がいい。

 社是の「いい会社を作りましょう」は単に経営上の数字が良いのではなく、会社を取り巻く人々が日常的に「いい会社だね」と言ってくれることを目標としている。また、それを実践し実現していることで国内外の経営者から高い評価を受けている。
 その社是の象徴の一つとしてこのガーデンがあるという。同社取締役の塚越亮氏は「ここを訪れた人たちや僕たち自身がいい環境の中で気持ちよく仕事できるようにするため、ガーデンの手入れはすべて社員が自主的に行っている」と話した。
 塚越寛会長も率先してガーデニングを行っていて、ガーデニングを通じて経営理念の一つである「年輪経営」という発想が生まれた。会社経営も樹木が毎年一つずつ年輪を重ねていくように、わずかずつ、しかし前年より確実に成長していくことを指す。急な成長よりも少しずつ目が細かいしっかりとした幹を作ることが重要だという。

 自然の中からも経営手法を吸収する社の経営理念に興味を持ち、会長の書いた「幸せになる生き方、働き方」を読んでみた。多くの格言がそこには記されていた。僕の目を引いたのは「ありがとうと言われるように、言うように」という言葉だった。
 「ありがとう」と世の中からも言われるように仕事をすること、そして何事にも感謝するようにということである。これは僕の父、三浦雄一郎が普段から言っている「サービス精神こそ人間として最も崇高な精神である」に共通していると思った。

 冒険は英語で「アドベンチャー」だが、ベンチャー(仕事)にアド(加える)ということで、究極の環境に身を置き、そこで得た経験を自分一人だけのものとするのではなく、得られた経験や学び、喜びを社会に還元することが冒険の意義であるとする。
 「サービス精神こそ人として最も崇高な精神」。永続的企業を目指す経営者と冒険家の共通項を見たような気がした。

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