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逆境でのチャレンジ

2015年4月11日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 昨年11月、日本人初の世界王座3階級制覇をプロ初黒星で逃した藤岡奈穂子選手(39、竹原&畑山ボクサー・フィットネス・ジム)が、3月14日、メキシコで行われた世界ボクシング評議会(WBC)女子スーパーフライ級インターナショナル王者、マリアナ・フアレス選手と対戦し2-1の判定勝ちで復帰を飾った。

 藤岡選手は、世界ボクシング協会(WBA)女子スーパーフライ級王者でもある。もともとミニフライ級だが、タイトルを返上し、より強い相手を求め3階級も上げたスーパーフライ級での戦いを続ける。
 相手のフアレス選手はリーチが長いボクサータイプの強敵。モデルも兼業する美貌を兼ね備えた地元期待の人気ボクサーだ。藤岡選手は敵地での逆境を意識して、積極的に懐に潜り込み連打を重ねたが、恐れていた判定に持ち込まれた。「相手に勝つにはKO勝ちしかない」と覚悟を決めていた。「そのためには何でもやる」。メキシコに渡る前に彼女が取り組んだ低酸素トレーニングもその一環だった。

 メキシコ市の標高2400㍍にある高地ナウカルパンのような環境では酸素の供給が間に合わなく無酸素運動になりやすい。無酸素運動は筋肉疲労物質の一つ、乳酸が出やすくたまりやすい。しかし、低酸素環境で全力を出すインターバルトレーニングを重ねることによって乳酸が出にくくなったり、それに対しての耐久性が高まったりする。
 東京・千駄ヶ谷にあるミウラドルフィンズの低酸素室で迫力のあるミット音が鳴り響いていた。
 2400~3800㍍レベルの低酸素環境の中で、リズムよくパンチを繰り出す合間にトレーナーのミットをかわしすばやく懐に飛び込みコンビネーションを打ち込む。無酸素運動の極みである。彼女のその日のメニューはインターバルランニング4セット、ミット打ち6セット、メキシコで行われる10ラウンドの試合を想定してのトレーニングだった。

 158センチと言う小柄ながらこれまで14戦13勝(6KO)1敗と言う戦績を積み上げたのは「彼女が持っている瞬発力のたまもの」と柴田貴之マネージャーは言う。低酸素トレーニングはその瞬発力を高所で持続させる助けになったと思う。
 藤岡選手は大方の予想を覆して勝利を手にした。その攻める姿勢を最後まで貫いたことがアウェーのメキシコ人の心もつかんだに違いない。

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