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Xマス彩るスキー神話

2010年12月18日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 この時期、街は色とりどりのイルミネーションとクリスマスソングであふれる。これは僕にとって同時にスキーシーズ到来のサインだ。最近、クリスマスとスキーの面白いつながりを見つけた。
 北欧ではキリスト以前からクリスマスの時期に冬至を祝うお祭りがあり、この時に北欧神話の最高神であるオーディンが8本足の魔法馬とトナカイに乗ってやってきて、煙突から家に入り贈り物を届けるという――これがサンタクロースの原型ではないかといわれている。
 一年で日照時間が最も短い冬至は、緯度が高い北欧では一日のほとんどが暗闇の中だ。大人たちは暖炉の前で神話を話すことで、寒くて暗闇に震える子供たちにさぞかし夢を与えたのだろう。

 北欧はスキー発祥の地でもある。スカンジナビア半島では紀元前2500年前からスキーをする壁画が見つかるほどその歴史は深く、スキーに関する神話も数多くある。中でも、僕が子供のころ、父・雄一郎が話してくれたアガシー・ポーの物語はスキーの始まりともいうべき北欧神話だ。
 その昔、北欧には6本足の鹿たちがいた。6本も足があるので雪の中で彼らに追いつける猟師などいない。そこで猟師の頭領であるアガシー・ポーは6本足の鹿たちに追いつける技を教えてくださいと神様にお願いした。さすが雪の国、北欧にはスキーと狩猟の男神「ウル」と雪の女神「スカディー」がいる。彼らは天国のスキースクールでアガシー・ポーにスキーの手ほどきを行い、ポーはスキーの名手になり再び地上へと戻った。
 そして故郷に帰ると、はるか彼方にいる6本足の鹿たちを目指してものすごいスピードで追いつき、その足を2本ずつ切り取った。鹿は4本足となり、人間の狩りに適した動物になった。この時、ポーが雪面に残したシュプールが天の川になったという。

 昔の北欧神話にはたくさんの夢がちりばめられている。父と僕にとってスキーは魔法の翼だ。自由自在に操り、地上を飛び出して世界の山々に連れて行ってくれる。クリスマスになると心ときめく神話の世界の扉が開かれ、夜空を見上げるとサンタクロースのソリと天の川を滑るポーの姿が見えるようだ。今シーズンもスキーキャンプを通じてそんな温かな思いを多くの子供たちの心に刻んでいきたい。

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