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膝のケガ防止に訓練を

2015年11月28日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 昨年から僕は全日本スキー連盟(SAJ)の教育本部の国際委員となった。そのため先日、長野県の熊の湯スキー場で行われたスキー中央研修会に行って来た。
 本来、この時期の研修会は、スキー技術選手権で選ばれたナショナルデモンストレーターやSAJデモンストレーター(現在の協定を表現するスキーヤー)が雪上で今年の協定を実演する場である。しかし、今年は雪不足のためスキーを滑ることができず、2日間の研修期間は座学となった。今年の教程内容のビデオを見たり、スキーの教え方、スキースクールのリスクマネジメントなどを話し合ったりした。

 この中で興味深いレクチャーがあった。スキー上級指導員の冨樫泰一・茨城大教育学部教授の「スキーによる膝の損傷」である。
 冨樫教授によると、スキーのケガで最も多いのが膝で、全体の33.9%だという。こうしたケガはスキー特有のものが多く、スキーの先端が引っかかって外を向き、膝が内側にひねられる「外反・外旋位」、スキーが不意にまえに出てしまい、すねが前に引き出されて大きな過重がかかる「脛骨(けいこつ)前方引き出し」、スキーが「ハ」の字になりながら膝が内側に入り、後方に転ぶ「膝屈曲・下腿(かたい)外旋位」などである。こうしたケガは膝の靭帯や半月版の損傷を引き起こしスキーや実生活に大きな影響を与えてしまう。

 教授は膝の損傷を防ぎ、膝の安定性を高めるためのトレーニングを指導する。膝の裏の筋肉であるハムストリングや腓腹筋(ひふくきん)を鍛えることや、膝の損傷のリスクが少ないハーフスクワットのトレーニングである。
 冨樫教授は関東2部の大学女子バスケットボールチームの膝のケガ防止プログラムを紹介した。バスケットボールもスキー同様、膝のケガが多い。そこで冨樫教授は膝周りの筋力強化トレーニングに加え、ボールを空中で捕って着地するとき、しっかりと膝関節の軸がぶれないようなポジションで降りる練習、不安定な足場の上に片足で立ってドリブルを行う練習など、筋力向上だけではなく膝を守るスキルも教えていた。こうした取り組みで膝のケガが56%減少したという。

 スキーでも、その人が持つ癖やスキー特有の動作が思わぬケガにつながることがある。しっかりとした解剖学的知識を持ち、ケガ防止のスキルを考案、実践することもスキーを広めるために重要である。

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