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命を守る地元の情報

2015年2月21日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 僕はバックカントリー(管理されていない山岳地帯)スキーが大好きである。目の前に広がる手付かずの斜面、そこを滑る浮遊感、斜面や雪質の変化を滑り切る奥深さ。スキーが自然スポーツとして内在する、あらゆる難しさと素晴らしさを備えている。
 同時にバックカントリーはむき出しの自然と相対するため多くのリスクが存在する。雪崩、道迷い、遭難、単純に移動手段であるスキーが壊れただけで取り残される危険性もある。
 こうしたリスクから身を守るために多くの知識や道具が発展してきた。雪崩に埋もれた時、自分の位置を知らせるビーコン、遭難者を探し当てるゾンデ(長い棒)、掘り起こすための携帯用シャベル、最近では雪崩に巻き込まれた際に雪崩の表層に自分を浮かべるエアバッグも開発され生存率を上げている。

 しかし、こうした取り組みがありながらも年々増えるバックカントリースキー・スノーボード人気により、今年も事故が相次いでいる。
 こうしたリスクを完全になくすことはできないが、安全性を増やすため僕自身がいつも行っていることがある。それは地元の情報をしっかりと活用することである。2年前、父が80歳でエベレストに出発する直前、志賀高原でトレーニングを行ったことがある。この時、渋峠を越えて草津に下りるバックカントリースキーを計画した。 
 空は晴れ渡り、一面マシュマロのような斜面が広がる。僕は高揚していたが、ガイドの大雲芳樹さんは「斜面が変化する前で止まってください」と言われた。滑走距離が短くなることを残念に思いながらも言われた通りにそこで止まる。そしてトラバース(横移動)しようと斜面を横切るとサーッと足元に亀裂が入り100㍍の幅で表層雪崩が起きた。
 いくら父や僕が山に精通していても、新しい土地の地形には疎い。ましてやそこに積もっている雪がいつ降ったものかも分らない。

 北海道・ニセコエリアでは積極的にバックカントリーを開放しながらも10年間大きな事故を起こしていない。雪崩のエキスパートである新谷暁生さんのアドバイスを広く告知して一人一人のスキーヤーと共有する努力を怠らなかったおかげである。僕はバックカントリーには入るときは地元のガイドやパトロールのアドバイスをライフラインにしている。

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