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冒険支える企業の50周年

2017年1月7日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 2016年の年の瀬、父、三浦雄一郎と僕はアウトドアブランド、ザ・ノース・フェイス、創業50周年イベントに招待された。
 ザ・ノース・フェイスには僕たちの遠征の数々をサポートしてもらっている。しかし、長い付き合いがありながらも、世界をまたにかけるこの一流ブランドの成り立ちを知る機会がなかった。今回の50周年イベントでゴールドウインの取締役専務執行役員で、ザ・ノース・フェイス事業にも深くかかわった渡辺貴生氏が冒頭の挨拶で興味深い歴史について語った。

 1966年、ダグラス・トンプキンズが米サンフランシスコのコロンバスアベニューに登山とスキー用品を扱う30坪ほどの小さな店を開いた。2年後、当時MBAを取得したばかりのケネス・ハップロップがブランドと店を買い取った。
 当時はベトナム戦争、レイチェル・カールソンが告発した農薬による環境汚染の実態、キング牧師による人種差別への公民権運動など、米国の若者は混乱の中にあった。ケネスはその中で「人として本質的に価値のある自然保護活動や最高の技術を伴った製品の開発を行う」ことをザ・ノース・フェイスの理念とした。

 こうしたことから自然の中に身を投じて挑戦する行為に対して惜しみない支援を続けている。今回の50周年ではプロスキーヤーで冒険家である父、雄一郎、プロクライマーである平山ユージ氏、そして世界的なアルペン選手であり、現在は冒険スキーに取り組んでいる佐々木明氏がトークショーを行い、それぞれが今後の挑戦について語った。
 平山氏は昨年負った膝のケガからの復帰、クライミングの五種目追加に対する思い、そしてこれからもこれまで以上に世界の山々に挑戦を続けることを話した。父は18年、85歳でチベット側からのチョオユー滑走を目指しトレーニングを続けていると報告した。

 エベレストで見かけるテントのほとんどはザ・ノース・フェイス製であった。挑戦しているのはアスリートだけではない。その厳しい環境に耐え抜くための道具やウエアも切磋琢磨するように発展し、冒険を支え続けている。

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