ナナカマドで冬予想
2013年12月7日日経新聞夕刊に掲載されたものです。
1カ月前、谷川岳に登っていると、ナナカマドの実が見事に色づいていた。
以前、母からナナカマドの実が紅色になり、房が大きいとその年は大雪になるといわれたことがある。厳しい冬の到来を予感した。
僕はスキーヤーという職業柄、秋も終わりになると、その年にどれくらい雪が降るのかというのが気になる。個人的に「暑い夏の年は雪が多い」と信じている。こうした言い伝えは地方にもたくさんある。
長野では「猿が早く里に下りる年は冬が早い」、秋田では「ヘクサンボ(カメムシ)が多く出る年は大雪になる」、新潟では「カマキリが高いところに産卵する年は雪が多い」と言われている。
自然には自然のサイクルがあり、森や山の生き物たちは独特の季節の感受性によって生きている。実際、ニセコに住んでいる僕の友人のログハウスには歓迎しないカメムシがすでにぞろぞろ出ている。
今年、エベレスト登頂を気象面でサポートしてくれた、ウェザーニュースの飯島栄一さんに今年の冬の予想をしてもらった。飯島さんによると、今年は「三波型」と言われる特徴的な気象パターンだそうだ。北極を中心にできる極循環という冷たい空気があり、これが南下すると寒気が日本に流れ込んでくる。三波型はこの波が蛇行して3つの山と谷ができるパターンで、シベリアの寒気が極東付近(日本を含む)に流れ込みやすくなるという。
ナナカマドにしてもカメムシにしてもどのように三波型を予測していたのかわからないが、言い伝えの中には科学的根拠のあるものもあるという。
その一つが「ツバメが低く飛ぶと雨が降る」だ。空気が湿り、燕の餌の昆虫が低く飛ぶため、その虫をついばもうとツバメが低く飛ぶ行動が見られる。これも考察に基づいた立派な科学である。言い伝えの中にある長期的な予想の信ぴょう性は分からないが、自然の変化に敏感な昔の人の考察にも理はあるのだろう。
温暖化と一見反するように見られる寒気の蛇行も「異常気象」の一環かもしれない。これから増え続けると予想される異常気象に対し、これまで僕たちが持っていた科学や言い伝えが、これからどれくらい通じるだろうか。冬は寒くなり、いつまでもスキーが続けられるようにナナカマドに願いを込めた。
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