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「魔法の言葉」で雪山に

2013年1月26日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 僕は幼いころ、スキーが嫌いで、父に雪山へ連れ出されるたびに地べたに伏せてダダをこねた。理由は寒いからだ。
 しかしある日、父が米国から子供用のスキーをお土産に買ってきてくれた。当時日本では子供のためのちゃんとしたスキーを作っていなかった。父はその米国製の短いスキーを「これで雲の上に乗った孫悟空のように自由自在に滑ることができるぞ」と言って僕に手渡した。単純な僕はその言葉で孫悟空になりきり、夢中でスキーをするようになった。
 そして今、僕自身が父親としてスキーを4歳の息子と一緒にやっている。息子にもスキーの楽しさを知り、人生の宝物にしてもらえたらと思うからだ。

 どうやって寒い中、子供を外に連れ出すかが難問だ。今は子供向けのウエアやスキー装備は充実している。かたいスキーブーツを履かせる時は、特撮の戦隊もののロボットになった気持ちにさせる。スキーのノウハウよりも、いかにして外に出てスキーを履かせるかまでの方がよほど難しい。
 滑走するときに活躍するのが米国製の子供用ハーネス「ラッキーバムス」だ。肩と腰にストラップを装着し、子供が滑る時に親が制御するヒモと収納ポケット、そして背中に取っ手がついている。取っ手は子供を足の間に挟んで滑らせる時、リフトに乗る時、転んだ時にアシストして立ち上がらせるのに有効だ。ヒモはある程度滑れるようになったらスピード制御に役立ち、必要がなくなれば外してそのまま滑らせることもできる。色々試した結果、これが最も自由度が高く安全に子供とスキーができる用具で、周囲にも薦めている。

 最大の利点は、スキーで止まるコツさえ覚えさせれば、その後は、教える必要がないということだ。大人が安全を確保してあげれば、子供は理想的にターンをする方法を自分で発見する。ある程度自信がつくと、自分で好きな斜面を滑るようになる。息子は整地されたコースよりも新雪や木の間がお気に入りで、戦隊ものの変身ポーズをとりながら楽しそうに何やら叫びながら入っていく。
 白銀の雪の上を自由に遊び回れるスキー場は大人にも子供にも最高の遊園地だ。冒険心を育む絶好の場所へ、あとはきっかけとなる道具とちょっとした「魔法の言葉」があればいいのである。

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