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運動という処方箋

2014年10月25日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 僕が米国・ユタ大学在籍中、運動生理学の最初の授業で先生はこう話した。「運動生理学とは運動している時に体に何が起きているかということを研究する学問で、そのため『運動』に限らず、あらゆる医学の分野とかかわる学問である」と。それまで運動生理学とはスポーツ選手の競技性を高める認識しかなかった僕にとって目の覚めるような話であった。

 運動は幅広い病気に対し予防や改善効果が複数の研究機関から認められている。鬱、認知症、2型糖尿病、高血圧、高コレステロール血症、数種類のがん、心筋梗塞、脳梗塞などは運動が効果を持つリストの一部で、その応用は広がりを見せている。
 日本で運動の効果を積極的に取り入れているのが、医療法人和風会だ。和風会の石田信彦理事長は2002年から医療と本格的フィットネスを融合した「メディカルフィットネスセンタープラム」を東京青梅市に設立、以来、同会が所有するリハビリテーションやケアハウスに本格的な運動プログラムを導入、高血圧症、高脂血症、糖尿病を薬なし、あるいは大幅に薬を減らすことを実現している。

 データホライゾンという会社は、広島県呉市の国民健康保険加入者が受けた診療に対して医療機関が保険者に請求する医療報酬の明細書(レセプト)を解析するデータヘルス事業を展開。糖尿病の重症化が懸念され透析のおそれのある人々や高血圧、高脂血症の患者に運動指導、食習慣の生活改善指導に積極的に介入した。結果、指導した透析リスク患者に対してすべてが3年間、透析に移行することがなかった。また処方を安価なジェネリック薬品に切り替えるなどで2億円の医療費削減を実現。同プロジェクトは東京都荒川区でも行われ現在進行中だ。
 呉市の取り組みを受け、昨年6月、安倍晋三首相は成長戦略第3弾のスピーチで「レセプトに詰まっている健康情報、これを分析、評価すれば健康管理につながる。様々なサービスを生み出す宝の山です」と評価している。先日、総務省で和風会、データホライゾン社などでつくる「データヘルス研究会」の取り組みを説明、それに私も随行させてもらった。

 運動は幅広い病気に対して効果を持ちながら副作用がほとんどない。運動や食事に対して積極的に踏み込んだ医療を実現することがこれからの日本に求められている。

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