見出し画像

北極圏に新航路出現?

2012年6月16日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 僕が12歳の時、父とアラスカのアンカレッジから約1000キロの北極圏プルドーベイまで車の旅に出たことがある。延々と続く雪原の中、吹雪に見舞われながら目的地に着いた。記念に北極に向かって裸で氷原を走った強烈な思い出がある。
 しかし、こうした体験のウソのような過去になろうとしている。先月、ウッズホール海洋研究所名誉教授である本庄丕(すすむ)先生が日本に来た際、現在の温暖化の状況について話を聞いた。

 地球の温暖化は極地、とりわけ海の多い北極圏に多大な影響をもたらしている。実際に夏季の氷はこれから数年後には、絶滅する可能性が高いと話していた。そうなると、北極の氷の上で暮らすシロクマ、アザラシや北極ギツネ等の存在は脅かされる。
 問題はそれにとどまらない。北極やグリーンランドの大陸氷床が溶解し、大量の淡水が海に流れ込むと、世界の海面が上昇するだけでなく、北極海の海水の比重が軽くなり、深海に向かって大量に落ち込んでいた塩分が高くて冷たい水塊の供給が低下する。このことが世界の深海循環流のあり方を大きく変化させ、世界の気候に異常をもたらす可能性が高い。世界が北極の科学研究を強く進める大きな理由のひとつである。

 一方で先生は「こうした状況を逆手にとって生かす方法もある」と言う。「これから数年以内に夏季には、今まで厚い海氷に閉ざされていた海域、海峡がはるかに縮小する。そこでベーリング海峡を通過してアジアとヨーロッパ、北米東岸の主要港を直結する北極海航路が可能になる」というのだ。
 この航路の出現により、北半球の工業生産物、原料の交換がより安価、スムーズになるだけではなく、巨大な物流に伴う炭酸ガスの放出が顕著に軽減される。いくつかの日本の港が、この新しい物流ルートのアジア側主要ハブ港として活躍するだろうが、津軽海峡の海洋法での地位など、今すぐ解決しなければならない問題も山積みしているらしい。

 海洋、気候、そしてこの惑星に存在し、栄えてきた「生命」全体の安全を考えるとき、「文明の発展」に対する考え方は大きな転換期に直面している。そして、世界経済のあり方についても多くの修正点と新しい可能性を模索する重要な転換期が来ているのではないか。

ブログ村ランキングに登録中!
記事の内容が良かったら、ぜひ👉PUSHして応援してください^^

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?