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四股で膝のケガ防止

2014年12月6日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 相撲に詳しい友人と今年の秋場所を見て以来、相撲に興味を持つようになった。それぞれの力士の取組前の癖、立合いの呼吸、迫力のあるぶつかり合いや技を見ているうちにその奥深さに魅了された。
 中でも横綱・白鵬の土俵入りの見事さに思わず息をのんだ。大きく高く足を上げて四股を踏む。これは柔軟性、バランス、強さの三拍子がそろっていないとできない。

 相撲部屋に入門するとまず最初にケガ防止のために股関節を柔らかくする股割りを行うという。解剖学的に見ても、股関節が柔らかいことは、力士の重い体を支えるための要である膝をケガから守るのにとても有効である。
 股関節は専門的には蝶番(ちょうつがい)関節といわれる。扉の開閉をする蝶番と同じしくみで、膝関節がつなぐ大腿骨と腓骨(ひこつ)が同方向に一致して動く場合はとても強いが、蝶番構造は多方向から力が加わると途端にもろくなってしまう。 
 スキーでも不意に膝がよじれたり、過度に膝が内側には入ると膝の靭帯や半月版が損傷してしまう。これは蝶番構造の解剖学的用途とは異なった多方向からの無理な力が加わることによって起こる。

 しかし、こうした膝のケガは何も特別なことではない。日常生活のちょっとした癖の積み重ねで将来的に膝を痛めてしまう可能性がある。階段を上り下りする時やしゃがむ時、膝が内方向に曲がる「ニー・イントゥー・アウト』と言う動作を繰り返すと大腿骨と脛骨(けいこつ)の間に緩みができ、膝の蝶番構造がもろくなってしまいケガを誘発してしまう。膝は常につま先と同方向に曲がるのが望ましい。
 股わりがなぜケガの防止に有効であるかと言うと、股関節は球関節といって前後左右、旋回など複合的な動きをし、膝がつま先方向に曲がるよう大腿骨を調整できるからだ。

 相撲の稽古のように最初から激しい股割りはお勧めできないが、普段から股関節の柔軟性を保つことと、階段の上り下りの際、常に膝をつま先方向に曲げる意識を持つことが足の健康に重要である。
 ロコモティブシンドローム(運動器症候群)は、下肢の障害が理由で要介護リスクが高まる状態をいう。四股は昔から土中の邪気を払うといわれるが、四股をやることで病魔から体を守ることもできる。


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