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身体の内部感覚をつかむ

2015年5月9日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 先日、久しぶりにトータルフィットネスコーディネーター、中尾和子先生のボールエクササイズに行ってみた。軽快な京都弁で冗談を交えながらも、その内容は極めて解剖学的で奥が深い。
 会場に着くと中尾先生はプロジェクターにタブレット型の小型端末を接続している。プロジェクターに映し出されているのは人体の骨格だ。
 エクササイズが始まると体の内部感覚を得ることの大切さを話し始めた。僕たちの体には200以上の骨と600を超える筋肉がある。そのうち400が自分の意志によって動かすことのできる随意筋である。例えば腕を曲げるとき、上腕二頭筋(力こぶの筋肉)を縮めて、その反対にある上腕三頭筋を緩めて伸ばすといった具合だ。

 しかし、筋肉の多くは多層構造になっていて、意識が届きにくい筋肉が数多くある。例えば僕たちが一般的に背筋と呼んでいる筋肉も脊椎を中心としたいくつかの多層構造を持つ筋肉群だ。その中でも最も深い筋肉、棘筋(きょくきん)は脊椎の突起一つ一つをつないでいる。これほど細かい筋肉は普段の生活の中、なかなかイメージはついていかない。
 コリや痛みはこうした小さな筋肉の無意識下の緊張によることが多い。中尾先生はプロジェクターにそれぞれの骨格筋のイメージを映し出す。先生のガイドに従い、筋肉構造を頭に入れながら細部や深部の筋肉を意識する。ビジュアルイメージがあると集中しやすく感覚を得やすい。深部に神経が行き届き血液が流れ込むと、そこが温かくなる感じがする。

 以前からイメージトレーニングはスポーツ選手の中では取り入れられているが、最近は医療現場にも登場している。2012年、スカンディナビアの医学雑誌に21人の膝前十字靱帯受傷者に対してイメージトレーニングを行った研究が報告された。彼らを無作為に2つのグループに分け手術後、両方に通常のリハビリを行いながら、一方のグループのみにリラクゼーションとひざの構造内のイメージトレーニングをした。6カ月後、イメージトレーニングをしたグループは有意に膝の構造が安定し、さらにストレスホルモンも少なかったという結果が出た。
 中尾先生は「使ったように体は変わる」と言っている。今後はさらにケガや病気にまで有効なエクササイズに発展する可能性を秘めている。

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