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次世代につなぐために

2017年11月25日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 スノーボードの平野歩夢選手といえば2014年ソチ五輪の男子ハーフパイプ銀メダリスト。ソチの開幕目前に、僕は父親の平野英功さんと会った。当時の平野選手はすでにワールドカップ(W杯)優勝などの実績を積み上げていた。
 この活躍は父親の手に支えられていた。英功さんは出身地である新潟県村上市の旧公民館を改修し、本格的なスケートボードパークをつくった。息子はそこで幼いころからスケートボードに熱中し、養った感覚をスノーボードに生かしていたのだ。

 だが海外の強豪を相手にするにはそれでも十分ではなかった。毎年新しい技が生まれるスノーボードの世界で、負けじと平野選手が新しい高難度の業を身につけるには安全に練習することのできるバグジャンプ(巨大エアマットを備えた施設)が必要だった。
4年前、英功さんが僕に持ちかけた相談はバグジャンプをどうやって導入できるかというものだった。しかし、僕は平野選手が継続して活躍するには、県や地域、学校、企業が包括的に彼をサポートできる環境が必要だと考えた。エリート選手の練習環境や社会的条件を整え、その活躍を次世代の育成につなげる「新潟ウインタースポーツサポート制度(NWS)という事業はこの時に考案したものだ。
 その後、県の協力もあって念願のバグジャンプもスケートパークの裏手にできた。15歳の若さでメダリストになった平野選手は開志国際高校に入学、スノーボード部を立ち上げ、トレーニングと後輩の育成に取り組んだ。日大に在学する現在に至るまで世界トップクラスの実力を維持し、2018年の平昌五輪の有力選手だ。

英功さんは息子の成功だけを尊しとはしなかった。移動式スケートボードセクションを設営してNHK主催のイベントに貸し出し、新潟のストリートスポーツの祭典で3000人の観客を動員するイベントも開催。さらに今年、千葉県内で催された飛行機レースでもショーを行い、10月の新潟朱鷺メッセのイベントでは2000人を動員した。こうしたショーの入場料、放映権料を次世代選手の育成に還元する仕組みが出来上がったのは英功さんの功績だ。選手の演技に憧れた子供たちの体験型イベントへの申し込みが殺到。当初は考えていなかった形態だが、これも次世代育成の一助になるものだと思う。今後も微力ながらお手伝いをしたい。

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