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標高5300㍍の世界会議

2013年5月11日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 4月下旬、標高5300㍍のエベレストベースキャンプで公募隊の大手IMG(International Mountain Guides)にはロープ等の登山ルート工作装備がずらりと並んでいた。そこに各国登山隊の代表らが次々と集まり始めるとIMG代表のグレッグが「ここにはエベレスト登山のための6400㍍のロープ、(途中で分かれる)ローツェ登山のための2400㍍のロープ、100のアイススクリューとカラビナ、150本のアイスバーがある。
 すると、登山隊代表の一人が「すごいね、ところでこれをどうやって山に運ぶんだ?」。グレッグは「いい質問だね、それについて話し合おうじゃないか」とダイニングテントに各隊の代表を招集した。

 エベレスト登山史においてルート工作の方法は時代によって変容してきた。1970年代、三浦雄一郎が最初にエベレストを滑った時、登山許可はシーズン1国1隊という決まりがあった。この年、日本が三浦のスキー隊と日本山岳会の合同登山として許可をもらい、共同でルート工作を行った。
 近年では毎年30隊以上がネパール側から山頂を目指している。ベースキャンプからキャンプ2までの間はネパール政府公認のアイスフォールドクターと呼ばれるシェルパのグループがルート工作を受け持っており、各隊は使用料を支払い、利用する。
 キャンプ2から上は各隊が合同でルート工作を行うのだが、隊の規模もアタック時期もまちまちであるため、上部ルート工作は一部の隊に過剰に負担がかかってしまう。こうした不均衡を解消するため、これまではシェルパ同士や各隊のリーダーが集まって話し合いがなされた。しかしすべての隊が話し合いに参加するのでもなく、そこでなされた取り決めが確実に実行されるわけでもなかった。

 そのため、今年から大手の公募隊を中心にEOA(Expedition Operators Association)という組織ができた。これはネパール政府公認の組織で、登山許可を得た登山者からEOAが料金を徴収、これらのお金がプールされ、ロープ等の装備代やルート工作、荷揚げに志願した隊に還元される仕組みで、標高が高いほどその金額は増す。僕達の隊も荷揚げの一部とシェルパのルート工作を志願した。
 世界最高峰という特別な環境ならではの問題とその解決策が世界会議としては最高所のエベレストベースキャンプで討議されたのは意義深い。

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