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パラに見た人の可能性

2018年3月24日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 2月の平昌冬季五輪の後はスキーヤーとしての仕事が立て込み、毎日、雪の上に立っている。平昌パラリンピックはその合間を縫ってのテレビ観戦だった。

 先日、滞在先のホテルで見たアルペンスキーの1種目、視覚障害者によるスーパー複合(スーパー大回転と回転を1本ずつ滑る)には本当に驚いた。視覚障害のある選手が前を滑るガイドスキーヤーの導きに従いながら旗門をくぐり、タイムを競う。
 ガイドと選手は無線のマイクでつながれている。そこから聞こえるガイドの指示を頼りに、選手たちはものすごいスピードで旗門間隔の短い回転コースを的確に滑っている。そのコンビネーションに目を見張らされた。 
 先を行くガイドは、後ろの選手がゆれている旗門に当たらないように、旗門には極力触れずに滑る。最短距離を滑る後続の選手に追いつかれないために、ガイドにも高い技術が必要だ。そのうえで細かい指示も出す。その指示に従って、選手は斜面変化や回転のリズム変化にもコンマ数秒以内に対応する。滑りだけ見ていると、視覚障害があるとは信じられないほど的確にコースを攻める。

 スキー滑走のバランスは、多くの部分を視覚に頼っている。一度でもスキーの最中にホワイトアウトを経験したことがある人ならば、視界を奪われることの恐ろしさを理解してもらえるだろう。濃霧や吹雪によって視覚的な手がかりを失うと、前に滑っているのか後ろに滑っているのかも分らずに転んでしまう。 
 そうした自分の体験を考え合わせると、この2人1組のコンビネーションは一つの奇跡に思えてくる。一体どのような訓練を重ねれば、設定の細かい回転コースをこれほどのスピードで滑ることができるのか。

 日本勢の活躍が目立ったためだろう。報道量は過去の大会よりも増大し、冬期パラリンピックは私たちにとって近しいものになった。チェアスキーに乗って時速100キロを超えるスピードで滑走する村岡桃佳選手や森井大輝選手。バンクドスラローム下肢障害で繊細なボードコントロールを見せて金メダルに輝いた成田緑夢選手。6大会連続の出場で、今大会のノルディックスキー距離10キロクラシカル立位の金メダルが自身5個目のメダルとなった「レジェンド」新田佳浩選手。
  彼らはスポーツの領域を広げ、人類の潜在能力を示してくれた。五輪に優るほどの感動だった。

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