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ハチを侮り痛い目に

2011年9月24日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 先日、家族や友人と逗子の里山をハイキング中、スズメバチの大群に襲われた。 そこは普段からマウンテンバイクのトレイル(山道)として遊んでいるなじみの場所であり、森が深く木漏れ日を楽しみながら歩くにはとてもいい。東京の友達を案内しようと思い、今回は下見を兼ねていた。最近、近辺でスズメバチが出るとのうわさを聞いていたのは気がかりだったが、その確認の意味も含めて家族と友人を引き連れて山の中に入ったのだ。

 通常、スズメバチの巣の近くには見張りのスズメバチがいる。特に9月~10月は繁殖期になるので気が立っている。見張り蜂は何らかの威嚇行動を取る。それを見極める為に僕は先頭を歩いた。そして威嚇を受けたらすぐに引き返すつもりでいた。
 しかし、問題とされている箇所はスズメバチが出る様子もなく通り過ぎた。ホッとしているのもつかの間、後方から叫び声が聞こえた。10㍍ほど後ろを歩いていたグループに走って戻ると、友人、妻、息子がスズメバチに囲まれている。友人は息子を抱えていてくれた。子供を受け取り、必死になって逃げた。執拗に追いかけてくる蜂を振り切り、安全な場所までたどりつくと、11人中7人が刺されていたのを確認した。一番ひどかったのは友人の女性で7ヶ所。また友人の3歳の娘と僕の息子が頭を刺されたので、救急車を呼んですぐ下山することにした。

 日本では1年で平均20人ほどがスズメバチに刺されて尊い命を奪われている。熊による死者がおよそ5人以下であることを考えると、蜂に刺されるのは熊よりも怖い。今回は幸い、だれも大事に至らなかったが、みんなに痛くて怖い思いをさせてしまった。 
 この事件で反省されることがある。まず蜂がいるとわかっているところに家族や友人を連れて行ったことである。いい日和だったのでピクニック気分となり、その危険性を過小評価してしまった。
 さらに蜂が発した警告を見過ごしたことだ。最初のグループが通り過ぎたとき、蜂に警戒させ、第2グループが刺された結果になった。本来、彼らのすみかである場所に僕らが足を踏み入れるのであるから、もう少し謙虚でなければいけなかった。ヒマラヤだろうが里山だろうが、一歩、自然の中に入ったらそこには自然のルールがある。

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