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情熱あふれる冒険者

2017年12月16日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 先日、星野誠さんの7大陸最高峰登頂祝賀会を行った。星野さんとの出会いは3年前。僕たちミウラ・ドルフィンズが主催する登山学校「IPPO塾」に星野さんが参加したときだった。数回のレクチャーの後、最後に塾生と一緒に富士山に登った。その登山の最中、星野さんは「どうしたらエベレストに登れますかね」と相談してきた。
 星野さんはメガネ屋のオーナーで、聞けば登山経験はほとんど皆無。エベレストとは、そんな人が簡単に登れる山でもない。だが、口調は軽いものの星野さんの目は真剣そのもので、こちらをにらみつけてくる。このままにしておけないと思い、かつて僕らがエベレストでお世話になった、倉岡裕之ガイドを紹介した。

 その後、彼は倉岡ガイドのもとで、ヨーロッパ大陸最高峰エルブルースを登頂成功。今年に入ってエベレスト、キリマンジャロを、10月にはオセアニア最高峰カルステンツピラミッドを登って、7大陸の最高峰すべてに到達した。3年半でこの偉業に達した星野さんの次なる目標は、火星の太陽系最高峰「オリンポス山」を登ることだという。祝賀会でご本人が「チャレンジし続けるバカ」とテレながら語っていた。

 さて、2008年1月に始まった「三浦豪太 探検学校」は今年最後のこの稿をもって、ちょうど10年の歳月を走りきったことになる。本欄のミッションの一つは冒険をしている人の共通項を探ることにある。これまでに冒険家、探検家はもちろんのこと、科学、スポーツ、ビジネスといった様々な分野で新境地を開拓する人たちを250人ほど取材してきた。
 本欄を書き起こして間もなく、遺伝子科学者の村上和雄先生にインタビューしたことがある。村上先生は物事を達成するには「アホ」になることが大切であると語った。先生の定義する「アホ」とは、あせらず、おごらず、くさらず、陽気に笑い、人を笑わせ、不器用だがすべてに前向きに取り組み、回り道をするが最後には大きな答えにたどり着く人のことをいう。

 「アホ」や「バカ」になれるのは情熱の現れである。僕がインタビューした人たちはそれぞれ情熱にあふれ、行動し、新しい分野や境地を開拓した人たちであった。星野さんもまさしくそんな人。本当に火星に行きかねない人である。その情熱をたたえて、「アホ」「バカ」の代表である父の三浦雄一郎が音頭を取って乾杯したのであった。

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