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ビタミンDを「浴びる」

2015年10月24日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 群馬県の前橋温泉クリニックでは毎年「アンチエイジングキャンプ」を行っている。抗加齢医学の第一人者、白澤卓二先生のレクチャーのほか、同クリニックの岩波佳江子先生の本格的フラメンコが楽しみだ。
 僕は毎年このキャンプの登山の講師を任されている。今年は榛名山の天目山や相馬山の麓を歩く。「関東ふれあいの道」をコースとして18日に実施した。この日はめまいがするほどの日差しに、赤や黄色に染まり始めた榛名山一帯の紅葉が映えていた。

 最初の挨拶で白澤先生からアンチエイジングに対してのワンポイントアドバイスがある。今年のアドバイスはビタミンDについてだった。
 白澤先生によるとビタミンDは脂溶性のビタミンで、その役割はカルシウム吸収、骨の形成、がんの予防、血液凝固作用、免疫機能の正常化など多岐にわたる。その機能の多様性からビタミンDはビタミンというよりホルモンに分類されるほど重要だと言う。

 このビタミンDは食事でも吸収できるが、最も特徴なのはコレステロールをもとに紫外線によって皮膚でビタミンDが合成されることである。そのため太陽の光を浴びることがビタミンDを摂取するのに最も適当である。ところが現代では紫外線によるシミ、そばかす、日焼けなどの心配から太陽光に敏感になり過剰に避ける傾向にある。地表にすむ生物はすべからく太陽の恩恵と弊害の両方を受けていて、それらにうまく適合している。進化医学研究者のジャロン・モアレム博士によると肌の色はビタミンDの合成と葉酸(ビタミンB9)に左右されると言う。葉酸はレタスやホウレンソウなどの葉ものに含まれていて、細胞分裂やDNAの複製作業に関わっている。葉酸は特に胎児の発達時に重要な栄養素だ。しかし葉酸は紫外線に弱く、一方ビタミンDの合成には紫外線が必要である。

 人類はこの問題を解決するために肌の色を調整しているとモアレム博士は言う。赤道近くの日射量が多いところに住む人は葉酸を守るために皮膚下に紫外線が浸透しないよう肌は黒くなる。一方、日射量が少ない両極に近いところに住む人は紫外線を積極的に吸収しビタミンDを合成するため肌が白くなる。太陽との付き合い方を決めるのがこの二つの栄養素である。
 秋の紅葉をめでながら太陽の恩恵を浴びてビタミンDを備蓄してはどうだろうか。


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