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防虫加工の繊維

2015年6月13日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 梅雨に入り、いよいよ夏も近づいてきた。僕はアウトドア全般が好きで、スキー以外でも山登り、海遊び、川遊びができる夏が待ち遠しい。しかし、こんなに楽しいアウトドアの中に一つだけ僕が苦手なものがある。それは蚊やダニによる虫刺されだ。
 エベレストのように標高が高く空気が薄く寒い所で何日でも耐えられる僕でも、日本の低山で蚊が飛ぶ高い音が聞こえただけで眠れなくなってしまう。 

 そんな中、僕にとって力強い見方ができた。米国の「インセクトシールド」という会社の作っている防虫加工された繊維だ。5年前、スキー用品などを販売するK2ジャパンの元社長、松永孝治さんが海外で販売されているこの商品の輸入を始めた。インセクトシールドの繊維には除虫菊の忌避成分を人工的に再現した「ペルメトリン」の結晶がナノレベルで付着している。ペルメトリンは人体にほとんど無害な量で配合され、虫には神経毒と感じる量が含まれている。この商品は米環境保護局(EPA)から安全性の認定を受けている。

 商品の輸入を始めた時、松永氏からインセクトシールド繊維で作った網目のパーカーをもらった。ちょうど毎年恒例で行っている瀬戸内海の無人島、余島でのキャンプの時期だったので持参した。網目があまりにも大きくてこれでは絶対に蚊は防げないと思ったが、夜、浜辺で寝たところ、パーカーを着ていた上半身は全く蚊に刺されず、短パンだけ履いていた下半身は至る所、虫に刺された。この後、松永氏にかけ合い網目のズボンを作ってもらった。(網目のほうが涼しい)。以来、夏のキャンプには必ずインセクトシールドを上下でもって行っている。

 現在、世界で最も「人」を殺している生物は蚊である。ビル・ゲイツ氏らの分析によると、蚊はマラリア、デング熱、日本脳炎、ウエストナイル熱を媒介にし、年間で72万5千人がなくなっている。これは2位以下の「人が人を殺す」(47万5千人)や「蛇」(5万人)を大きく上回る数字だ。
 蚊の被害は主に熱帯地方のアフリカ、東南アジア、南米、中米に集中している。しかし、日本でも温暖化の影響かこれまでに熱帯地方にしか広まらなかったデング熱にかかった人が150人以上現れた。
 温暖化やグローバル化によって日本の環境は大きく変わった。虫刺されは古い問題であり、新しい問題でもあることを心にとどめておきたい。

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