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父の挑戦 いつか形に

2012年12月1日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 ロブチェイーストの遠征後、カトマンズに戻りホテルでの朝食中、「Mr. Miura?」と声をかけられた。彼の名前はデビッド・ブレッシャーズ、米国で最も有名なクライマーでありカメラマンだ。
 彼は1996年にIMAX用映画「エベレスト」の監督・撮影をつとめ「セブンイヤーズ・イン・チベット」「クリフハンガー」にも関わった。クライマーとしても5度のエベレスト登頂を果たしている。
 彼は父の大親友であるディック・バス(世界で初めて7大陸最高峰を登った)を、ガイドとしてエベレストに登らせている。30年ほど前に、その祝賀パーティーで会っているのだが「よくわかりましたね」と聞くと「心のヒーローに会えるというのは毎日の出来事ではないからね」と父との再会を喜んだ。

 そして最近、自分が手掛けている仕事を見てもらいたいと言って、ラップトップコンピューターを持ってきた。
 スクリーンには「グレーシャー・ワークス」とあり、ウェスタンクーンの氷河、ヌプツェ、ローツェそしてエベレストが撮られていた。
 その画面をまるで空を飛ぶようにマウスで操作できる。視界は360度上下どこでも移行し、ズームインすると驚くほど鮮明に氷河の氷を見ることができる。表示された氷河のアイコンをクリックすると氷の結晶の構造にまで入り込む。
 また、ウェスタンクーンのアイコンをドラックすると、1921年の写真と2007年に撮った写真がアイコンを中心に交互に現れる。2つの写真をオーバーラップさせると、過去の氷河の後退や山の風化の様子が明確に見て取れる。

 このプロジェクトはマイクロソフトリサーチとMIT(マサチューセッツ工科大)の共同開発による次世代のネット環境に適したRIN(リッチ・インタラクティブ・ナラティブ)プロジェクトだ。
 その土地の歴史、科学、冒険、風土等、興味が赴くままに膨大な情報にアクセスできるシステムで、彼がプロジェクトを指揮している。「自分は決して環境保全を訴える活動家ではないが、こうして現在と過去の事象を目の当たりにすることで、子供たちの意識が変わるのではないか」と考えている。
 いつの日か父の数々の挑戦も世界中の人々にこうした形で触れられるのかもしれない。

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