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オタクと音楽と表現者

私には何人かの音楽の生徒さんがいる。そしてレッスン中や後に音楽にまつわることや日常に起こるたわいもないことを話すのだけど。

この間、話の流れで生徒のA君が「この間、知り合いと一緒にベーシストのトークイベントに行ってその人の話を聴いてたら僕ミュージシャンにはなれないなって思ったんです」と。

どういうことかと思ったら、どうもそのミュージシャンが歴代1960年代あたりからのベーシストの名前を目まぐるしく出し、凄い勢いでそのベーシストたちの素晴らしい演奏について語ったそうだ。しかも、かなりマニアックに。

そのベーシストの話すミュージシャンを全く知らず、そしてそのミュージシャンたちに対する情報の多さに圧倒されてきたらしい。

「オタクって凄いって思ったんです。こういう風にいろいろマニアックに聴いてる人がミュージシャンになれるんだって。僕は無理だな。自分が好きなように音楽を作ってて、他のミュージシャンにもそんなに興味がないし」。

そんな話を聞きながら、そう言われてみれば私の周りにいるミュージシャンやミュージシャンじゃなくても音楽好きはこのA君のいうオタクたちばかりだなと改めて思った。この70年代のこのミュージシャンのアルバムのこの曲のドラマーのこのハイハットとベードラのコンビネーションがたまらない、なんて話はしょっちゅうだ。

自分の音楽を作る前に音楽が大好き、聴くのが大好き。それが高じてこんな風に楽器が弾きたくなったり歌ってみたくなったり、そんなことから一気に音楽にのめり込む。やってみたけどなんでこういう風にならないんだろう、ああどうしてと練習して聴いて、また練習して聴いてということをしているとどんどん時間が過ぎていく。でも楽しいから続けられる。そんなのが音楽だ。

そしてA君、きっと君が知らないミュージシャンの知らない曲で未だ聴き続けられている曲というのはなんらかの魅力があって聴かれている。そして人の心に何か素敵なものを残してくれる。そんな曲から学ぶことはたくさんあるよ。

そして音楽オタクはやはり音楽に対する尊敬があると思う。尊敬される対象である音楽は必ずこの先も残る。音楽がこの先なくなるなんてことは考えられないこと。そんな世の中がこないことを願おう。

頭の中でそう考えながら、昔聴いていた好きなミュージシャンたちのアルバムを久しぶりに聴きたくなった夕方。こんな空。

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