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浜崎なおこ×扇田裕太郎|~本当のうたつなぎが始まる~2022年11月4日(金)三軒茶屋Grape Fruit Moon『Moon Track vol.22』【ライブレポート】

取材・文/未侑愛瑠  photo/aki yoshikawa 

コロナ禍に入った2020年、SNSで自然発生的に広まった“うたつなぎ”。それは歌う動画を投稿して楽曲は指定せずに次の人を指名し、人と人とがつながっていくものだ。あれから2年半が過ぎた2022年11月4日、三軒茶屋Grape Fruit Moon(以下GFM)で『Moon Track vol.22』が開催された。イベントにはロック・バンドReplicaのヴォーカリストとして名をはせる浜崎なおこ、ソロ以外にも数多くのバンドに参加してセッションを重ねる扇田裕太郎の2人が出演した。

『Moon Track』は、2017年よりGFMとフライングマシーン代表・大和田浩樹氏が共同主催しているイベント。「奇をてらわず、絶妙な組み合わせ」を考えてさまざまなアーティストが出演しており、コロナ禍以降はライブ配信も行っている。
イベントは楽曲「INORI」を通じて、音楽の魔法に包まれた夜となった。ロック・バンドHan-naのヴォーカリストとして活躍した倉本ひとみことヒトミィクが、余命宣告後の2020年に音楽活動を再開し、盟友のなおこに「歌ってほしい曲ができた」と託したのが「INORI」だ。今回のライブで、なおこと扇田それぞれの「INORI」が広がっていく瞬間を目撃した。そんな伝説の始まりを予感させるライブをレポートする。

扇田裕太郎

 

最初に登場したのは、ハット姿がトレードマークにもなっている扇田だ。アコースティック・ギターとエレキ・ギターの2本を使い分け、ループや同期も駆使した迫力のある演奏で魅了する。

まずは、自己紹介を兼ねたMCを行った。ピンク・フロイドやレッド・ツェッペリンをルーツに持ち、ロック一筋のプレイヤーだったが、「自分で歌おうと思ったのは東日本大震災以降で。昨年、1stフルアルバム『I FEEL』をリリースしました」と話す。本日はその『I FEEL』の楽曲を中心に演奏すると宣言した。

コロナ禍に入ってから「ライブハウスが苦境に立たされていて、応援したい」との想いで作った「ライブハウスの明かり」を最初に演奏。〈地下へ繋がる秘密の入り口〉との歌い始めは、地下への階段を降りた先にあるGFMにぴったりだ。アコースティック・ギターの弾き語りから始まったが、アウトロではエレキ・ギターのようなサウンドエフェクトを用い、ボトルネック奏法でブルージーなフレーズを響かせる。続く「一本道」はロックサウンドで、〈あの黄いろいサブマリンで 意識の奥 深く潜り込む〉と、睡眠薬の隠語であるとも言われているビートルズの楽曲タイトル「イエロー・サブマリン」をほうふつとさせるフレーズも。サイケデリックなサウンドとディレイの効いたヴォーカルが、スペイシーなムードを醸し出した「宇宙船」が演奏される頃には、楽しそうな笑顔も見られた。

「満月は月に1日だけで、ほとんど不完全だけどとてもきれい。人間もそうじゃないかと人に例えて作った」と話して演奏された「欠けたムーンライト」は、さまざまな対象を重ねられる。〈あなたがそこにいるだけで その明かりは僕を照らしだす あなたが生きているだけで この心は満たされている〉と歌う扇田の優しく寄り添う声が心に染みこむ。

「コロナ禍に入ってからは、配信ライブを自宅から全部で150本くらいしました。そうしたら普段会えないような町の人に出会えて、オランダからも2年間毎週見に来てくれた。だから、行けるようになったら会いに行こうと、配信ライブにいつも来てくれる人たちの住む町に行きました。そうしたらオランダも行かなくちゃと思って行ってきました」と、その行動力に脱帽せざるを得ないMCが。「英語の曲もウケたけど、日本の曲も伝わった」と話し、次に演奏した英詩の「Feel Until You Are Gone」もオランダで歌ったと話す。そしてこの楽曲はライブ配信で見ていた人にとって、扇田の姿が見えづらいタイミングでもあっただろう。そう、彼は客席を練り歩きながら歌っていたのだ。しかも、ハーモニカとアコースティック・ギターだけで、アンプラグドの演奏をするという扇田のポリシーがあったのだ(ライブ配信では客席のマイクが音を拾っていたようだが)。そして「ハミングならいいのでは?」と煽り、観客のハミングが会場に響いた。続く「Different World」も英詩で、「視点の違いを受け入れることができれば戦いはなくなるのではないか」という願いが込められたミディアム・ナンバーだ。

【本当のうたつなぎが始まった】

次のMCは、もう1人の出演者であるなおこが、今年リリースした楽曲「INORI」について触れた。この楽曲は、2021年5月に闘病の末に逝去したヒトミィクが書き下ろして、なおこに託したものだ。「INORI」のインタビュー記事などを複数読んで感動したと話す。「取り組み方が、本当のこととして伝わってきました。『学校で合唱してほしい、世の中に広がってほしい』という想いに、その波動に加わりたいと思って英語バージョンを作ってきました」。そして扇田は、合計8年間の海外生活で身についた英語力を駆使して英詩を創り、扇田流の「INORI」を演奏した。原曲で、サビの最後に〈あなたは大丈夫〉と2回繰り返されるパートは、〈And you relief and you’ll be as yourself Everything will be okay〉と歌われた。そこに彼自身が込めた“祈り”も重なっているようだった。ヒトミィクが歌詞に込めた想いが、「うたつなぎ」のようにつながった初めての夜は、後に語り継がれる1日になる予感がした。

ラスト・ナンバーの「ギターの時代」では会場の熱も上がり手拍子が起こる。〈ヒットチャートの1位から10位まで ギターの音が聴こえて来ない時代〉と嘆く。さらに〈そのギターソロは長すぎない〉と、若者がギターソロを飛ばして聴く時代を風刺するような歌詞に思わず口角が上がる。さらに、この時代の1曲に匹敵するほどギターソロをエモーショナルにかき鳴らし、リベンジを果たすようにライブを締めくくった扇田にとてつもない潔さを感じた。

[セットリスト] 
01ライブハウスの明かり
02.一本道
03.宇宙船
04.欠けたムーンライト
05.Feel Until You Are Gone
06.Different World
07.INORI
08.ギターの時代

浜崎なおこ

続いては、ロング・ワンピースを身にまとったなおこが登場。全編英詩の「from the other side」から演奏を開始した。ロック・バンドNaoco&The Infections時代にリリースされた、心の深淵を覗くようなシューゲイザーを感じさせるナンバーだ。アコースティック・ギターの弾き語りながら、なおこの驚異的なシャウトと声量に観客はすでに圧倒されている。

最初のMCでは扇田のステージが素晴らしかったことを話し、「最後まで楽しんでってください」と挨拶を行う。次は2020年からソロとして本格始動後、配信シングル第二弾としてリリースされた「流星」へ。浮遊感が漂うギターの音が響く中、感情を抑えるように語る声が徐々にハイトーンかつエモーショナルになっていく。その声の対比が目の前から旅立つ相手の背中を見送る歌詞の切なさを際立たせる。

ここから広本葉子(Pf.)、YAN-G(Ba.)が登場して3人の布陣となる。YAN-Gが登場すると、いきなりiPhoneで観客と撮影を始めるお茶目な姿で観客を笑顔にする。また、先月に福岡県田川市でライブをしたエピソードを話す。1988年にメジャー・デビューしたReplicaの楽曲をコピーしていた熱心なファンからオファーがあったのだそう。次に演奏したReplica時代のミディアム・バラード「Rainy Day」は、3人の湿度を感じさせる演奏が、カップルが過ごす幸せな雨の日を感じさせる雰囲気に。続く「I wish you were here」も全編英詩のナンバーで、出会えた幸せと切なさが同居するラブソングだ。

本日、一つ目のハイライトは事前にSNSで告知されていた新曲発表だ。タイトルは未定で、曲の想いも多くは語らず演奏したいと。ただ「わたしは知っているけど、相手はわたしのことを絶対知らない。いろんな戦いやつらい思いの中で、踏ん張って闘っている。打ちのめそうになりながらも這い上がろうとする相手に向けて書いた」と話す。その新曲は、映画『バグダッド・カフェ』の主題歌「コーリング・ユー」をほうふつとさせるような間奏が印象的で、歌詞に込められた願いは、観客の心に届いたはず。なぜなら、同じように自分を知らない相手に願いを込めた経験があるだろうし、同時に楽曲を通じて見守られ、応援されていることを感じられたからだ。

「今日は今年最後のライブです。配信で見てくれている方もうれしいですけど、こうやってリアルに会えていることがうれしいです」と観客へ感謝を伝える。「ソロになって最初に書いた曲」と紹介して演奏されたのは「stars fallin' from the sky」。天体への想いを込めた楽曲は、透明な輝きと力強さを感じられるが、続く「おやすみ」では、打って変わって慈愛に満ちた優しい裏声に抱擁される。 

【歌はつながり、祈りは受け継がれる】


もう一つのハイライトは、「INORI」だ。「親友のヒトミィクに託されたこの楽曲をわたし一人が歌っていくよりも、いろんな形で歌い継いでもらいたいと思っていました。扇田さんが英語で歌いたいという話を聞いてはいたけど、まさか今日に間に合うとは!」そう話し、扇田がツアーの多忙な中で仕上げてきたこと、その素晴らしさに驚きと喜びを表現する。また「いろんな形で歌い継いでいってほしいです。ひとみちゃん(ヒトミィク)に報告するつもりで、わたしたちバージョンの演奏をします」。ギターを置き、歌に徹した「INORI」は、遺していく者に向けた壮大な“祈り”が込められた普遍的な楽曲で、つらいときも別の世界から温かく見守られているような気持ちに。この曲が多くの観客の心に響いたのは、ヒトミィクが紡いだ言葉を歌うなおこ自身の心が震えていたからだろう。熱を帯びた声と表情がそのことを証明していた。演奏後は号泣する観客を心配するシーンさえ見られた。なおこも後で語っていたが、本番はもちろん、扇田が「INORI」をリハーサルした時点で、すでにニヤニヤしながらタバコを吸っているヒトミィクの存在を感じたのだと。筆者もヒトミィクの魂が「INORI」の瞬間は、この場所に存在していることを感じていた。さらに、「声は人に残された最後の野性だと思います。好きな人には優しい言葉を言ってほしいけれど、言葉を越えた魔法が……目に見えないものを信じられます」と、話を締めくくった。

続く「Love Song」では、裏声からシャウト、透明感からハスキーにさまざまな声を使い分ける。そのようななおこが本領発揮する場面は、演奏も自然と熱を帯びる。

次のMCでは「早く一緒に歌えるようになりたいね」と話す。10月に新型コロナウイルス感染拡大防止のためのガイドラインが緩和されて、制限ありで声出しは可能となった。しかし、今回のイベントは声出しを禁止されていた。そのため、次のライブまでの宿題はファンの皆と「何か一緒にできること」を考えるそうだ。本編ラストナンバーは「離れていても会えなくても、同じ空を眺めていられたらいいな」との祈りを込めた「Golden Clouds」へ。伸びのよい声にメロディアスなベースが絶妙に混じり合い響いた。

アンコールでは、扇田を呼び込んだ。扇田は「実はなおこさんとは対バンしているんです。2019年のフジロックで!なおこと一郎。(田中一郎とのユニット)で出演していたときに」と告白をし、なおこを驚かせた。同日ではなかったが、同じ「orange café」ステージにて白浜久プロジェクトで出演していたと。また今回だけではなく、これからも扇田は英詩バージョンの「INORI」を歌っていくそうだ。ここからきっと本当の意味での“うたつなぎ”が始まっていくのだろう。今日はその初夜となったのだ。

最後に演奏したセッションナンバーは「Time After Time」が選ばれた。なおこはシンディ・ローパーをリスペクトしており、デビュー当時の髪型をまねていた頃があったほど。扇田のエレキ・ギターとやわらかいベースプレイ、キーボードの浮遊感が音源のような新鮮さを醸し出す。そして、サビではなおこと扇田が醸し出すハーモニーはとても美しく包容力があり、長年演奏されてきたように思えるほど。温かくて伝説の始まりを予感させるイベントとなった。

ライブ直後の4人の表情は音楽の魔法に包まれた素晴らしい夜だったことを物語っている。

なお、このライブは11日までアーカイブ配信が行われている。なおこと扇田、二人の波動が溶け合い、魔法に包まれた奇跡の夜を是非とも堪能してほしい。『Moon Track』は、これからもイベントと配信ライブを行う予定であり、要チェックだ。

[セットリスト]
01.from the other side
02.流星
03.Rainy Day
04.I wish you were here
05.新曲
06.stars fallin' from the sky
07.おやすみ
08.INORI
09.Love Song
10.Golden Clouds

ENCORE
01.Time After Time(with扇田裕太郎)

■配信情報■
2022年11月4日(金) 三軒茶屋Grape Fruit Moon「Moon Track vol.22」※アーカイブ配信

▼配信チケット:2,500円
https://twitcasting.tv/c:grapefruitmoon_/shopcart/185375
本配信のアーカイブは11月11日(金)まで購入&視聴可能。

■アーティスト情報■
【扇田裕太郎】
扇田裕太郎 YUTARO OGIDA OFFICIAL WEB SITE:http://ogidayutaro.com/
Twitter:https://twitter.com/yutaro69/
instabio:https://instabio.cc/4041503Jc09p0

【浜崎なおこ】
Facebook「Replica」:https://m.facebook.com/Replica.Again  Twitter:https://twitter.com/naoco607/
Instagram:https://instagram.com/naoco_hamasaki



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