日記

私の娘の話をしよう。
先日、先立たれてしまったから。

娘は18歳だった。
親バカと思われるかもしれないが
娘はとても綺麗だった。
透き通った白い肌にすらりと伸びた黒い髪
すっきりとした顔立ちに
そして、その目は鏡のように全てを写して
とても不気味だった。

頭がとても良かった。
どんな難しい問題を出しても解くくせに
学校のテストでは90点台を取ってくるから
何故か聞いたら
目立ちたくないからと
素っ気なく言われた記憶がある。

娘は以外と人気者だった。
ただ、私にはどこかその友達は
娘に操られているように見えたし
どこか熱狂的で半狂乱に見えた。
娘をそれを楽しんでいるように見えた。

そんな娘の日記を見つけたので
今から読んでみようと思う。

1998年 4月 20日
おとうさんに日記をかってもらった。
これから私はこの日記に私のはなしを
かいていこうと思います

4月27日
私はまわりのともだちとはちがい
小さな虫や、きれいな花などを
つぶすとなんだかたのしかったのです
まわりの人たちにおかしいと言われるので
私は今日もかくれてミミズをちぎって
あそびました。

2005年 6月5日
私の行為の対象はエスカレートしてきました。
小動物を殺すようになりました。
今日はネズミを廃墟で捕まえて
握りつぶして殺しました。
そろそろ犬や猫など少し大きな動物を殺してみたい。

10月13日
犬や猫を殺すことに飽きてきました。
ただ、野良猫、野良犬以上に大きな動物なんて
人間しか私の周りにはいない。
人間を殺せばいろいろ面倒くさい。
どうしたものか。

2006年 2月24日
私は心理学というものに出会った。
本を読み漁り少しだけわかったことが、
頑張ればある程度であるが
人のことを操れるということだ。

6月15日
クラスで一番人気者の女の子に
標的を絞り、私は話しかけた。
あっさり私は彼女に気に入られた。

7月1日
彼女に気に入られて、私無しでは
生きられない、そんなくらいに
壊すことに成功したが
困ったことがある。
クラスの人気者のお気に入りというのは
どうしても目立ってしまう。
一挙手一投足に注目されるのだ。
下手に美しい彼女を壊せないでいる。

10月10日
私にストーカーできてしまった。
これでは戯れに野良犬も殺せない。
私の中に鬱憤が溜まっていくのを感じる。
イラついて仕方がない。

10月15日
ストーカーが私に
人気のない道で話しかけてくれた。
私はひらめいた。

今、彼を痛めつけたらどんなに楽しいか。

話しかけてながら近ずいてきたので
野良犬とかで遊ぶために
ポケットに隠し持っていた果物ナイフで
相手の横腹を軽く切ってあげた。
突然の痛みに小さな悲鳴をあげて
逃げ出そうとしたみたいだが、
足を引っ掛け転ばせて
うつ伏せになった彼に
私は馬乗りになった。
そうして、少しずつ背中や腕、足を
軽く切りつけてあげた。

楽しくて仕方のなかった。
「このまま殺してあげるね。」
と言うと悲鳴をあげて逃げられた。

とても惜しいことをした。
しかし、心底楽しく、気持ち良かった。

12月14日
私が構ってあげないだけで
クラスの人気者の女の子は
精神を病み不登校になった。
クラスは瓦解した。
私は笑っていた。

2008年 5月7日
私はなにをやっても楽しくなくなった。
人を壊しても、犬や猫を殺しても
あの時のような感動はなくなった。
もう死のうかな、そう考えた。

7月7日
私は入水自殺をしようと決意した。
七夕、皆が天の川に夢中の中
人知れず私は川に飛び込むのだ。

私の娘の死を聞き
娘のクラスメイトの半分が精神を病み
3人が希望を失ったといい自殺したらしい。

娘はバケモノだったのか、
それに気づかなかった私は
なんだったのか。
娘の苦悩は私の理解できる範疇を
超えているのだろうが、
それでも私は責任を感じた。

どこで間違えてしまったのか
その後悔だけが私の中に残った。

娘の不思議なあの瞳の感じは
こういうことだったのだと、
日記を読んでやっと気づいたのだ。
彼女にとって
私は父親ですらなかったのかもしれない。

今読んだ日記は燃やそうと思う。
娘の遺品は少ないが
こんなものは残さないほうが
良いのだと思うのだ。

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