はなし話

「あなたのお名前聞かせてよ。」
その声を反芻したが、
僕の名前はなんだったか。
その意味はなんだったか
僕の頭では理解出来なかった。

慣れた手つきで袋を開け
シャリっと音を立て食べた。
僕の好物はうまい棒だ。
安いからただそれだけの理由だけれど。
やはり慣れ親しんだ味であるから、
美味しいのだと感じる。

何か光って見えるものを見た。
そこには見すぼらしい姿の少年が、
薄い茶色の目を携え、
立っていた。
光って見えるその中で、
少年の目はちっとも光っていなかった。

存在証明。
それは自分一人で出来るものなのか、
干渉する相手が居なければ、
その存在に価値はあるのか。
僕には分からない。
でも僕には時間がたくさんあるから、
考えずにはいられない。

薄暗く狭い路地。
とても変に思われるかもしれないが、
僕はここが落ち着く。
だってあまり人が来ないもの。
たまにネズミがいるけれど。

手をつないで歩いている、
親と子供らしき人。
僕はたまにその手を、
思いっきり叩いて、
引き剥がしてしまいたくなる。
幸せそうなのになんでだろう。

言葉というのは何の為にあったか、
その意味を長らく忘れていた。
きっとそれは気持ちを伝えるための手段。
存在を相手に伝えて認めるためのツール。
人はやはり一人だと、
人ではなく動物となるのだ。
食べて消費するだけのただの肉塊だ。

白い手が差し伸べられた。
僕には突然の出来事だった。
「君の名前は?」
そう聞かれた。
僕は答えられず黙ってしまった。
「そうかぁ、うんじゃあ君の名前は
ひとまずみちるくんだね。」
そう決められて手を引かれて、
連れて行かれた。
優しい手にひらのぬくもりに
安堵した僕は、何も考えられず
ついて行った。



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