青の緞帳が下りるまで #13
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展示品三 ヤローキンの手紙
人払いされた劇場で、マエストロとイーラは展示コーナーを歩く。
その一角でマエストロは足をとめた。
「あのご時世、持ち出せたものは少なかった。その中で私がずっと持っていたのがヤローキン先生の手紙です」
よれよれの封筒と色あせた手紙。
手紙は原本ではなく、複製が展示されている。
「あなたは私がヤローキンと会ったことがないと話していましたが、会ったことはなくても、手紙はもらっていたのですよ。その受け渡しをしてくれたのがミーチャでした」
「おじいちゃんが?」
イーラは聞きなおした。初耳だった。
「ミーチャは多くのことを私にしてくれたのです。そのことで、どれだけの窮地に陥ることになるか、私は考えだにしなかった。ミーチャはひょっとすると私の想像もつかないような犠牲を払ったかもしれない。家族を不幸な目にあわせたかもしれない。でもだからこそ、私は絶対に成功しなければならないと誓ったのです。いつか――彼こそが、私の恩人だと世界に公表できるように」
マエストロは淡く微笑んだ。
「そう願ってはいたのですが――そうすることこそ、ミーチャが望んでいないことかもしれないとも思ったのです。今、あなたに話していることもそうです。ミーチャは知られたくなかったのでしょう。なら、知らないふりをしておくというのも、ミーチャへの感謝の印ではないかとも思うのです」
***
「ヤローキンの手紙」(現存する一部)
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