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青の緞帳が下りるまで #12

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第二章 大公とミーチャ 2


 アルトランディアの国境の街、ユヴェリルブルグはサルティコフ大公の所領である。
 その街を見下ろす山の中腹に、サルティコフ大公が保養を兼ねて隠遁生活を送る屋敷がある。

 新雪の積もった山道を馬車は時間をかけて進んでいった。
 向かいに座っていた大公の使者がミーチャに号外新聞を差し出した。『王都壊滅』という文字が真っ先に目に飛び込んでくる。
 街でも特別施設でもこの話で持ちきりだった。
 その報道が真実かどうかわからない以上、喪に服すこともできない。またリトヴィスが攻めてくるとなれば、葬儀どころの話ではない。

「大変なことになりましたね」

 他人事のように呟く使者に対して、ミーチャも「そうですね」と、やはりどこか他人事のように答える。
 大公がこの事態をみこし、ミーチャとキリルに昨夜の任務を命じたのは、間違いないだろう。
 そう考えると、空恐ろしい思いがした。あの方は一体どこまで見通しているのだろう。

「大公は王位を継がれるおつもりなのでしょうか?」

 ミーチャは使者に話しかける。世間話を装って大公の意向を聞き出しておきたかった。

「国王一家は全員死亡。この国にはもはや大公のほかに王家の血を引く方は残っていないでしょう」

「さあ、どうでしょう。大公は王位などどうでもよいお方ですよ。それより貴殿を待っている間におもしろい情報を入手いたしましてね」

 話をはぐらかした後、使者は声をひそめた。

「国王一家は全員が死亡という報道がでていましたが、実はあれは偽情報です。アナスタシア王女が生き延びているそうですよ」

「王女が?」

 ミーチャの顔を見て、使者は大きくうなずいた。

「王室劇場が爆破され、式典の招待客は全員死亡したと新聞に書かれていましたが、悪運強い王女は劇場に行くのが遅れ、生き延びたんだそうです」

「それは……」

 喜んでいいものか悪いものか、ミーチャにはわからなかった。リトヴィス人の王妃から生まれたアナスタシア王女は、アルトランディアの王女とはいえ、半分はリトヴィス人である。
 ミーチャの顔を見て、使者はなおも話を続けた。

「ただ王女の行方はわからないのです。王都の河畔で王女の馬車と、王女の護衛にあたっていたリトヴィス兵の遺体は発見されたそうなのですが、付近に王女の遺体はなかったそうです。リトヴィスは王女に多額の懸賞金をかけて捜索するとの噂です」

「王女が生きていれば、リトヴィスは王女をどうするでしょう」

「殺しはしないでしょうね。リトヴィスの王女は利用価値が高い。生きていれば即位させ、リトヴィスの人間を王女の配偶者にすえるでしょう。それでなくとも、王女の婚約者が近々公表される予定だったそうですよ」

「本当ですか」

「ええ、リトヴィスの政府高官の息子です。王女は嫌っていたそうですけどね」

「では大公は現在、王女の救出にあたっているのでしょうか」

「さあ、どうでしょう」

 一通り話し終えると、ふたたび馬車の中に静寂が落ちる。
 沈黙に耐え切れず、口を開いたのはミーチャだった。

「ところで、今回の呼び出しはいったいどういう用向きなのでしょう。昨夜の任務に何か不手際でもあったのでしょうか」

「私は少佐殿を呼んでくるようにとの命に従っただけですので、その用件までは」
 使者は空とぼけた様子で答えた後、言い添えた。

「ああ、大公閣下は少佐殿は命の恩人の命令を背くような人間ではないと、信頼しておいでのようでしたよ」

 その使者の表情でミーチャは悟った。
 やはり、あの工作がばれたのだ。
 揺れる馬車の中で一通り言い訳を考えてみたが、大公の屋敷の門が見えたところでミーチャは覚悟を決めた。ヴィーカの弟ヴィーチャさえ無事に国外に脱出できたのなら、どんな罰でも受けよう。自分はあのとき一度、死んだ人間なのだから――。

 アルトランディア王国の二代大公の一人、サルティコフ大公の居城としては、その二階建ての屋敷はずいぶん慎ましい作りだった。

 一切の装飾を排除した屋敷の前には、幾何学庭園も、噴水もオブジェもない。正面だけ見ると、この屋敷の主はかなりの倹約家のように思えるのだが、実はその屋敷の奥に、主の趣味が色濃く繁栄された複数の建物が屹立している。

 ミーチャはいつものように屋敷を通過し、大公お気に入りの建物に向かう。
 杖を手にした大公その人が入口でミーチャを待っていた。

「待ちかねたぞ。寒空の下、年寄りを何時間待たせるつもりだ!」

 そこは大公の私財を投げ打って作られた劇場だった。
 アルトランディア王家の人間には音楽や芸術に傾倒する者が少なくなく、大公もその一人だった。若い頃から役者志望で有名だったが、サルティコフ大公領を与えられてしまったがため、に自らが俳優になる夢は諦めた。代わりに莫大な遺産を手に入れた大公は、自分専用の劇場を作り上げてしまったのである。

 金に糸目をつけなかったため、サルティコフ家の劇場は、音響効果も空調も王室劇場をしのぐとの噂だった。大公はそこに各国の音楽家、歌手、役者、ダンサーを招き、内輪の催しを開いては、余生を楽しんでた。

「足腰の弱い年寄りを気遣って、車椅子でも押せ」

 大公はミーチャに車椅子を持ってこさせると、革張りの座椅子にどっかと座った。
 歩きながら話すという合図だった。言われたとおりミーチャは大公の乗った車椅子を押し、劇場の通路を歩いた。

(相変わらず、読めない人だ)

 白髪交じりの髪を見ながら、ミーチャは心の中で思う。
 サルティコフ大公といえば、一般には死相の漂った顔と杖姿の肖像画が有名で、世間では死にかけの老人と思われていたが、実際は健康そのものだった。

 役者志望であった大公は瀕死の病人役を演じるのが巧みで、初めて会ったときにはミーチャもころりと騙されてしまった。

「あの病人なら手を汚さずとも勝手に死ぬだろう」と皆に思い込ませて早三十年余り。大公は王宮で起こった一連の暗殺事件にも無縁で、居心地のよい自分の城で我が世の春を謳歌している。車椅子を押してはいるが、大公の足腰が弱いのかどうかも、はかりかねた。

「ご自分の屋敷でまで演技されなくてもよろしいのではありませんか?」

 ミーチャは大公に言った。

「どこで誰が見ているかわからんからな」

 ふりむきざまににやりと笑う大公の顔半分は麻痺で動かない。言動は虚飾に塗れているが、これだけは作り物ではない。子供の頃、毒殺されそうになったときの後遺症だという。

「大公閣下、ニコライ十世陛下が崩御され、閣下を時期国王にとの声も高まっているようです。王都に行かれなくてもよろしいのですか?」

「ああ? この病人で老体のわしになんぞ、無理無理。わしを担ぎ出すためにわざわざ屋敷まで来るものもおったが追い返したわ。どうせ延命措置を施していただけの王家よ。滅びてしまうのなら滅びるがいい」

 人を食ったような物言いも信頼はできない。その反応で、人を試し、判別しているからだ。下手に同調してしまうと、捕らえられる可能性もある。

「閣下、亡き陛下の葬儀は閣下の名で執り行うのではないのですか?」

「あんなバカ甥の葬儀など、わしは知らぬ」

「なにをおっしゃいますか。本来、前国王の弟君でいらっしゃる大公閣下が王位を継ぐべきところ、病弱を理由に、甥のニコライ様に王位を押し付けたとうかがっておりますが」

「わしは無理強いしたことはない。王家が断絶するならそれはそれでよかった。それを自ら王位に就くことを選んだのはやつだ」

「そうなのですか」
「両親ともに王宮で毒殺されておりながら、よくぞ国王になる決心をしたと感心したものだ。音楽と女に現を抜かしていた阿呆かと思っていたが、意外と責任感の強い男だと少し見直した。リトヴィス王女を王妃に迎え、一時的にリトヴィスと講和をはかったしな」

 サルティコフ大公はやや台詞がかった調子で、他人事のように語った。

「もっとも王妃は短命でやつの望む通りにはならなかったが――。バカはバカなりにアルトランディアの平和のために力を尽くそうとした。哀れにも自国の民には理解されなかったようだがな」

 大公はからからと笑った。彼の真意はミーチャには読めない。いつも演技で本心を隠しているからだ。
 赤い絨毯の上を歩き、劇場の貴賓室の前にさしかかったときだった。

「大公閣下、そろそろ本題に移ってもよろしいでしょうか」

 しびれを切らし、ミーチャは大公に言った。
 処罰されるのであれば、早いほうがよかった。

「火急のお呼び立てということでしたが、どういったご用件だったのでしょうか。まさか退屈しのぎの話し相手として私を呼び寄せたのではないとは思っておりますが」

「ああ、そうだった。まあ、これを見てみろ」

 大公はひざ掛けの下から小冊子を取り出し、ミーチャに手渡した。

『コーリャと村娘の恋』

 任務の叱責を覚悟していたミーチャは呆気に取られた。その紙束はどこからどう見ても、演劇の台本にしか見えなかった。

 いや、表紙はカムフラージュで、中に暗号が書かれているのかもしれない。そう思い、ミーチャはパラパラとページを捲った。最後のページまで到達したが、暗号も極秘文書も発見できなかった。自分に発見できないほどの暗号をここに隠しているとすれば、たいしたものだが。

「大公、私にはこれは素人が書いたごく一般的な演劇の台本にしか見えないのですが」

「そりゃそうだろう。それはれっきとした舞台の台本なんじゃからな」

 大公はからからと笑った。

「は?」

 国家存亡の危機というときに自分をわざわざ呼び寄せた理由が、台本を見せたかったから?

 ミーチャは台本の表紙をまじまじと見つめる。

「素人の作品という評はいただけないがな。これはわしが昨日書き上げたばかりのほかほかの新作じゃ」

 大公はどこかほこらしげだった。ミーチャはもう一度その台本に目を通した。

コーリャ「叔父上、私は昨日理想の女性を発見しました! 彼女と結婚します。今日こそは叔父上に彼女を紹介しようと思って連れてきました!」
(コーリャ、黒いショールを高々と掲げる。公爵、ショールを見て絶句する)
公爵 「前からちょっと頭のネジが一本はずれておると思っておったが、よもやショールと結婚しようと思っておったとは」
コーリャ 「なんと。私が捕らえたのは黒髪の美女であったはずなのに、いつの間にショールに姿を変えたのか!」
(ターニャ、登場)
ターニャ 「すみません、私のショールを返してください」
コーリャ 「おお、わが愛しのターニャ!」
(コーリャ、ターニャを抱擁する)

 ミーチャは頭を抱えた。これは一体なんなのだ。

「おもしろいだろう。歴史一大スペクタクル、笑いあり涙ありの娯楽作品だ」

 大公の言動はミーチャの理解の範疇をこえている。
 あきれて物も言えなかった。肉親である国王一家が暗殺され、リトヴィスが王都を占拠し、国の一大事というときにこの人は、こんなくだらない作品を書いていたというのか。

「ハッピーエンドにしたかったのだか、最後は尻切れとんぼのようになってしまった。主役の二人がなかなか思うように動いてくれんのでな。そうそう、わしが特に気に入っとる場面が第二幕一場の……」

「はあ」

 大公の説明に適当に相槌を打ちつつ、ミーチャは胸を撫で下ろした。
 心配は杞憂だった。この調子だと例の工作のことは気づかれなかったらしい。

「……というわけでな。この芝居をわしの劇場で上演しようと思っておったんだが、せっかく集めた国外の役者や裏方がこの一連の事件でいなくなってしまってな。このご時世、娯楽はしばらくお預けになることだろう。悔しいがこれをお前さんに授けようと思ってな。それでここまで来てもらった」

「はあ――……えっ? 私に?」

 気の抜けた返事をしたあと、ミーチャは我に返り、台本を見つめた。

「これまでお前さんにはいろいろ世話になった。わしはこのとおりの老体、もう二度とお前さんに会えぬかもしれぬ。餞別だと思ってくれ」

「身に余る光栄でございます」

 ミーチャは大公の前で敬礼する。
 こんな二束三文にしかならない紙束より、正直金目の物のほうがありがたいのだが、そんなことは言い出せない。ミーチャは大公の機嫌を損ねないようにふるまった。

「お前さんはこれからどうするのだね?」

「それは――」

 大公の問いに、ミーチャは言葉に詰まる。
 当てはなかった。オゼルキ村に戻るにも、故郷はリトヴィス国の占領下にある。
 早くに両親を亡くしたミーチャに身よりはない。結婚を誓った女性はもうこの世にはいない。庇護するべきヴィーチャは国外に出た。

 大公はミーチャの表情を見て、静かに言った。

「わしはお前さんを買っておったよ。王立軍から離脱し、例の任務を遂行してくれたお前さんに褒美として国外に出られる旅券と旅行許可証を授けてやろうかとも思っていたのだが」

 そう言った後、大公の口元から一瞬、微笑が消えた。

「あんなことをやらかすとはな」

 大公はミーチャの顔を見上げた。その眼力にミーチャの全身の鳥肌が立った。
 やはり彼は油断のならない人物だった。
 芝居好きの大公の言葉を借りれば、芝居がかった彼の話し口は、劇場理論である『緊張と緩和』を旨としている。緊張をほぐし、気持ちをやわらげた後で、ピリリとした本題に入る。そうやって相手の気持ちを手玉にとって翻弄するのだ。

「もう十五年以上前になるかのう。士官候補生だったお前を死刑から救ってやったのは一体誰だったかね? お前が王立軍に戻れるようとりなしてやったのは。その恩をこんな形で返されるとは思ってもみなかったな」

 大公は回想を楽しんでいるかのように笑った。笑っているからこそ、ミーチャはどう答えていいものか迷った。

 そうだった。
 かつて死刑宣告を受けたミーチャの前にこの大公がふらりと現れたのだった。
 そのときの大公は杖をつき、供に体を支えられていた。

「若者、アルトランディア国王の義務とは何かわかるかね?」

 ミーチャはその人物が三番目の王位継承権を持つ、国王の叔父サルティコフ大公という大物などとは知らなかった。通りすがりの老人の戯言だろうと一度目は無視したのだが、二度訊ねられ、こう答えた。

「国の民を守ること。誰一人無駄死にさせないことです」

 その答えを大公は気に入ったようだった。
 処刑は執行されず、鉄格子の中のミーチャは何事もなかったのように解放され、士官候補生に戻された。もちろん、それには条件もあった。

 王立軍総司令官は二代大公の一人、宰相ルミャンツェフ大公。その彼に仕えながら、ミーチャはサルティコフ大公の手先として動くよう命令された。
 いわゆるスパイである。以来、ミーチャはサルティコフ大公の極秘任務にも関与することになった。

「ドミートリー、わしがお前に命じた任務は何だ?」

 大公の口調は怒っているとも呆れているとも判別がつかなかった。

「……緊急時、王宮の至宝を安全な地に疎開させることです」

 非常事態が発生したとき、王宮の脱出口に運ばれた至宝を、極秘のルートを使い、ユヴェリルブルグ経由で国外に送る手はずになっていた。

「そうだ。お前には前もってリストを渡しておいたはずだ。その任務にあたり、必要な者に予め旅券と旅行許可証の発行しておくよう、その手配もすべてお前に一任した。だがリストにわしのあずかり知らぬ人物の名前が載っておった。ヴィターリー・ヴォルホフとかいう男だ。音楽家の肩書きがついておった」

 ミーチャの全身が粟立った。覚悟していたこととはいえ、大公の口ぶりが淡々としていたからこそ、余計に恐ろしかった。

 落ち着け。ミーチャは自分に言い聞かせる。ヴィーチャは国境を越えた。大公に気づかれるのは想定内だ。

「ドミートリー、お前はリストを細工し、ある一名分の旅券と旅行許可証をそのヴィターリーとやらに与えた。認めるか?」

「……認めます」

「なぜそんなことをした?」

「私が削除したのは、王宮の小間使いの分です。そんな人間よりヴィターリーの方が才能あると判断したからです」

「お前に人の優劣がわかると?」

「わかります。彼は絶対に音楽家として成功するはずです」

「おお、大きく出たな。音楽院にも入っておらん人間が音楽家になると?」

「……何だったら賭けてもいいです」

「その賭けの結果がわかるときにはわしの寿命がつきておるよ」

 からからと笑うと、大公はミーチャに言った。

「そのヴィターリーとやらが国境を越えていたらお前を処分しようと思っていたのだが、よかったな。まだ国境を越えていない」

「な……」

 ミーチャの表情を読み取り、大公は意地悪そうに笑った。

「王立鉄道の最後の列車に乗っていたそうだが、私鉄への乗り継ぎには間に合わなかったようだ。どうやらユヴェリルブルグに残っているのではないかね?」

 大公は追い詰められた小動物をいたぶる猫のように、ミーチャに言った。

 大公の言葉にミーチャは何一つ答えることができなかった。大公の口ぶりからして、どうやらミーチャをすぐに処罰するつもりはないのは確かだ。だからこそ大公の意図がはかりかねた。

 ヴィーチャがまだ国内にいる。それを聞いてミーチャは歯軋りした。

 王都を制圧したリトヴィス軍がユヴェリルブルグに攻めてくるのはそう遠くないことだろう。王国から国外に出る列車はすべて止められている。列車が再開するのを待つにしても旅行許可証の有効期限があと数日で切れてしまう。

 ミーチャの胸の内の葛藤を、大公は面白がっているようだった。

「ああ、時間だな」

 ミーチャに扉を貴賓室の扉を開けさせると、大公は自分で車椅子を操縦し、中に入った。そしてついてくるように合図した。

 舞台衣装が飾られたその場所には、既に先客がいた。

「紹介しよう。今朝方、我が屋敷に飛び込んできた客人だ」

 ソファに座っていたのは、金髪と青い目の、陶器人形のような少女だった。ふんわりとしたシルエットのドレスを纏った少女は、お茶とケーキを前に、くつろいだ様子だった。

 サルティコフ大公に子供はいない。一体彼女は、何者なのだろうか――。

 ミーチャはどういう態度をとっていいものかわからず、少女に会釈した。少女はドレスの裾を握って優雅に立ち上がると、ミーチャの前に立ち、手を差し出した。キスしろということだろうか。少女は何かを大公に囁き、大公はそれを聞いて笑った。

「お前のことを美男子だと言っているぞ」

 ミーチャは少女の手の甲に唇を押し当てるまねをする。

 自己紹介をしたが、少女は頷くだけだった。

「リトヴィスの者がアナスタシア王女に懸賞をかけたのは知っているな。サルティコフ線が止められているのは、その王女捜索のためだ」

「それが何か」

 答えかけたミーチャははっとした。
 もしやこの少女は――。

「お前に名誉挽回のチャンスをやろう。この子を一週間護衛しろ。守り通すことができたら、お前の友人のヴィターリーとやらに旅行許可証と列車の切符をくれてやる」

 少女は青い目でミーチャに微笑んだ。

「ヨロシク」

 その言葉は、リトヴィス語だった。

→(次回)「青の緞帳が下りるまで #13」(展示品三 ヤローキンの手紙)


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