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青の緞帳が下りるまで #20

←(前回)「青の緞帳が下りるまで #19」(第四章 偽アナスタシア王女 2)

 展示品五 王女賛歌

「これが祖母の残した証言です」

 イーラはマエストロに祖母の手記を見せる。

* * *

 私に王女のことを教えてくれたのは、Aです。
 今、どこで何をしているのかは知りません。私が王女を演じないといけないときに、王女と会ったことがあるAの話は、とても参考になりました。
 アルトランディア人が憎んでいる王女を、Aは一度も悪く言ったことがなかった。むしろ、命の恩人であり、もっともアルトランディア人らしいと言ったのです。
 Aはユヴェリルブルグでヤローキンを待ちながら、アナスタシア王女の無事を祈っていました。
 だからこそ、Aは歌っていたのかもしれません。
 国王讃歌には二番があったのです。その歌詞は、王女讃歌でした。


この世に 幸いあれ
この世に 幸いあれ
王女殿下に幸いあれ
心からの願いを聞き届けたまえ
われらの愛しいアルトランディアの王女殿下に祝福を
王女よ、国の至宝を守りたまえ
青きアルトランディアの民を愛したまえ
あまねく大地に輝かんばかりの祝福を
守りたまえ その歌声が響く限り


 Y劇場でAと何を話したのかは、きっと誰にも話さないでしょう。話したところで信じてくれる人などいるはずがないのです。孫のイーラがいつか書きとめて、公表してくれるかもしれませんが、それでも多くの人は私の言葉を信じないでしょう。
 それほどありえないことが、私の身に起きていたのです。


→(次回)「青の緞帳が下りるまで #21」(第五章 ヴィーカの記憶  1)

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