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プレーヤーズ・ファーストの理念と行動

野球指導者が基本の「き」として知っておいた方がよいと思われる人と組織の科学を「野球指導学」という形でまとめていきたいと思います。

第1回目は、「プレーヤーズ・ファーストの理念と行動」についてです。

私は企業における人と組織の課題に戦略人事コンサルタント、経営学研究者の視点から日々向き合っています。専門は、組織行動論(組織の中の人間行動)です。会社の中でどうしたら「人の個性や能力を発揮させられるのか、それを支えるマネジメントやリーダーシップとはどのようなものか」や「企業内教育とはどうあるべきか」、「具体的な現場実践法は?」などについて課題解決の方策作りに経営者や現場のリーダー達と向き合っています。

100年以上続く老舗企業や、好業績を維持し続けている優良企業では、総じて、「人を企業活動の主人公においている」ということがいえます。そこには「理念」の存在があります。理念によって、人が主人公であるという風土や文化を形成しているといえます。

野球文化を考える時、理念としての『プレーヤーズ・ファースト』の存在があります。人を主人公においてチーム活動を展開しようとするならば、「経験」から学ぶということが大切になります。経験で学ぶということは、「わかるからできる」になることであり、成長過程のプロセスをいかに指導者がデザインしていくことが大切となります。指導理念としてのプレーヤーズ・ファーストの存在が軸となります。経験から学ぶとはどういうことでしょうか。学習について一言で言うと、以下となります。

学習とは、「何を行う上で、自分に不足しているものを自ら認識し、それを身につけるために最適な道具や環境を自ら選択し、自らの意思で成長していくこと」です。学習には、「自ら」という言葉がキーワード。自発性、主体性の発揮が欠かせません。

人が成長していくためには時間がかかるものです。短期的な結果を求めること、行き過ぎた勝利至上主義を起点とした指導スタイルは、選手がのびのびと挑戦的にプレーをする機会を減らしてしまうことに繋がります。少年野球のステージと大学野球のステージ、プロ野球における指導が同じであるはずがありません。競技レベルが段階的にアップしていきますので、上のステージに上がるほど、「勝つことを求められる」ことは当たり前です。しかし、「プレーヤーズ・ファースト」は、どのステージでも軸となる「理念」であると私は考えています。

野球(スポーツ)は人が行うものであり、その人らしさ、個性と能力の自由な発揚こそが大切だと思うからです。

プレーヤーズ・ファーストの理念を野球指導者が実践しようとした時、どうしたらよいのかに悩む姿があります。特に少年野球の指導者は野球指導の専門家ではなく、それぞれが社会人として何かしらのビジネス活動を行っていて土日を中心に指導活動を行う、二刀流です。

「プレーヤーズ・ファーストの理念を指導実践する」ためにはどうしたらよいのか、それは、選手育成の科学を理解し、経験学習のメカニズムを活用して指導していくスタイルを確立していくことが指導者の一助となります。

ここでのポイントは、「やり方(Doing)」以上に指導方針としての「在り方(Being)をしっかり軸に持つ」といいことになります。プレーヤーズ・ファーストの理念を現場で実行するためには、プレーヤーズ・ファーストという理念、在り方を大切にする、それを具現化するための①チームマネジメント、②指導者のリーダーシップとコーチング、③コミュニケーション、④コンプライアンスなどを習得して、選手の主体性を育む指導が実現できればプレーヤーズ・ファーストの野球が実現できると私は考えています。

ややもすると、指導者は、野球技術のはやり(トレンド)を追う傾向が否めません。これだけ情報化社会になった現在、情報は色々なところから手に入りますので当然のことといえます。はやり(トレンド)を追うことは悪いことではありませんが、その理論の本質を理解し、選手個々の状況に応じて、導入を検討していかなければ、実践的かつ、効果的な選手育成の知識として選手に提供することはできません。

技術指導以上に、「選手(人)はどうしたら成長するのか」の発達理論、人材育成論などの知識を習得することで指導者指導センスがアップすると私は考えています。私の専門とする組織行動論の中では、組織の中で働く人が経験から学ぶ際、以下の3つの要素が関係すると考えられています。

①良い経験に巡り合うこと、

②良い経験から多くのことを学ぶ力を持っていること、

③良い経験を積む機会が多く、学ぶ力を養ってくれる組織に属していること

この考え方を基にプレーヤーズ・ファーストの指導を考えると、「指導者は、選手に良質な経験を与えること」、「選手が野球経験から多くのことを学ぶ力を養うこと」、「野球チームという組織が、学習風土があること=プレーヤーズ・ファーストの在り方を大切にしているチーム風土の形成」と言い換えることができます。
   
指導者の方々は、異口同音に「選手を育てる大切さ」「選手を活かす組織の在り方」について「どうすれば上手くできるか」の難しさを語られます。

いくら良い土(やり方)を教えても、植物自体に養分を吸い上げる力がなくては実を結ばないのと同じように、いくら良い経験をしてもチーム自体に学習風土という土壌、プレーヤーズ・ファーストの理念に基づくチーム作りがなければ選手たちの経験学習の効果は上がらないのではないでしょうか。

プレーヤーズ・ファーストは、理念であり、在り方(Being)です。野球界及びスポーツ界では、その言葉の意味や定義はそれぞれの人によって語られ、それぞれの人がバラバラに解釈されているのも事実です。まだまだ言葉としては脆弱であり、広辞苑にも掲載されていない言葉でもあります。

プレーヤーズ・ファーストという言葉に「意味」を与え、それを訴求し、共通認識と共通言語化していくことが求められています。



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