クイーン (べこクイーン鉄塔・毎週ショートショートnote)
『クイーンとは足が長いもんだ』
今日は一日中、牧場主と雇われ作業員が、そんな話をしていた。なんとかクイーンのスタイルの良いこと、露出の多いこと、見事なサービス精神を褒め称えていた。
僕は牛だ。広大と形容される囲われた敷地で草を喰み、少し戻し、またそれを喰む。そんな生活をしている。
主人の言うクイーンは見たことが無いのでわからないけれど、足の長い美しいものを僕は知っている。
敷地の端っこから見える、鉄塔だ。
地面からすらりと細い足が伸びていて、いつも姿勢が良い。ひとところも無駄のない形をしている。雨の日も風の日も、健気に立ち尽くしている。俯くことさえしない。
強気な彼女を、僕は飽かず眺めている。いつか彼女の側に寄り添い、そんなに無理をしなくてもいいんだと、声をかけてあげたいと思っている。
暑さ寒さに耐え忍ぶ彼女を見ていると、僕も負けていられない気持ちになる。今日はいわゆる、出荷の日であるけれども、僕は泣かない。クイーンのその立ち姿を目に焼き付けて、トラックへと歩を進める。
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