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映画ノート

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映画ノート⑲ GS映画『小さなスナック』

斎藤耕一がこの作品を監督した頃は、まだ駆け出し時代。1968年から69年にかけて『虹の中のレモン』、『小さなスナック』、『落ち葉とくちづけ』(3作品ともヴィレッジ・シンガーズが出演)と立て続けに3本のGS(グループサウンズ)関連映画を発表している。以前、3本まとめて観る機会があったが、残念ながらいずれもぱっとしない出来栄えの凡作だった。 中でもこの『小さなスナック』は脚本構成がめちゃくちゃで何が主題なのか観ていてさっぱり分からず、訳の分からない暗い「不倫悲恋映画」という印象

映画ノート⑰ 2020年公開映画甘口寸評 『シカゴ7裁判』『ジョジョ・ラビット』『罪の声』『リチャード・ジュエル』他3本

『シカゴ7裁判』は、1968年の「シカゴ暴動」を題材にした法廷群像劇。 「シカゴ暴動」は、ベトナム戦争反対を訴えるために民主党大会に集まった15000人のデモ隊とこれを阻止するために動員された2万名以上の警官、州兵、陸軍部隊とが激しく衝突し、暴動容疑で多数の逮捕者を出した事件。 保守系裁判官の初めらから有罪ありきの強引な訴訟指揮と闘い、警察の仕掛けた謀略や嘘の数々を次々と暴いていく過程が非常にスリリング。初めは頼りなさそうに見えた弁護士が、途中からだんだん本領を発揮し

映画ノート⑯ 『コリーニ事件』 ~自国の戦争加害責任と戦後処理の闇を鋭く告発した反戦映画

『コリーニ事件』は、昨年観た外国映画ベストワン。 全く予備知識なしで期待せずに観たドイツ映画。 弁護士兼作家のフェルディナント・フォン・シーラッハの同名小説が原作(邦訳あり)で、2011年に出版されて大反響を呼びベストセラーになったこと。それだけではなくこの小説の内容が、ある法律の改正を促すほどの衝撃をドイツ政界と法曹界に及ぼしたことなどは映画の鑑賞後に知った。 ドイツの高級ホテルで年老いたイタリア人コリーニが自分より高齢のドイツ人大物実業家ハンス・マイヤーを射殺し、殺

映画ノート⑫ 日本の戦争犯罪と向き合った映画『スパイの妻』

初めに 『スパイの妻』は日中戦争真っ只中の1940年、軍国主義一色という抑圧された暗い時代に抗い、己の信ずる「正義」を貫こうとした一組の夫婦の「愛」の物語。 もともとNHKのBS8Kドラマとして放映された作品。劇場公開に至った経緯はよく分かりませんが、作品の出来が非常によいと評価されたので、劇場公開したのだろうと思われます。 この映画の主題に関わる重要な要素になっているのが、「関東軍第731部隊」。この部隊と戦後日本医学界との切っても切れない深い関係について、こちらに詳し

映画ノート⑪ 1950年代SF映画の最高峰『禁断の惑星』

先日、NHKBSプレミアムで『禁断の惑星』(1956)が放映されたので、久しぶりに観てみました。 主題は勿論のこと、最近のVFXにはない手作り感満載のクラシカルな特撮技術、テクニカラーに比べると発色がやや地味なイーストマンカラーをうまく使った美しい色彩設計、1950年台のアメリカSF雑誌の表紙を思わせる惑星クレルの情景や地下の巨大な核融合装置等の書き割り(マットペイント )、電子音による音楽や音響効果、アニメーション(「イドの怪物」等)との合成等、どれも当時の最高水準で、改

映画ノート⑨ アメリカ映画の革命「アメリカン・ニューシネマ」

日本独自のジャンル 「アメリカン・ニューシネマ」日本でアメリカン・ニューシネマと言えば、「ああ、あの時代のアメリカ映画のことね。」とすぐに何本かの作品の題名が浮かぶほど、年配の映画ファンにはよく知られた言葉です。 しかし、意外なことにこれは日本だけの現象で、海外に目を向けてみると大元のアメリカにもその他の国にも、こうした用語は存在しないようです。 ですから、同年代のアメリカの映画ファンに「アメリカン・ニューシネマについてどう思う?」と聞いても、「それ何のこと?」と、全く話が

映画ノート⑦ 三島由紀夫唯一のメジャー主演映画『からっ風野郎』

今で言うなら「マルチタレント」を気取っていたのか、文学だけにとどまらず評論、演劇、映画、歌手、ボクシング、ボディビル、極右政治活動、自衛隊体験入隊、民間防衛組織(盾の会)作り、軍事訓練など様々な分野に手を出しながら、右へ右へと行ってしまった三島由紀夫。                                                               挙句の果てに、最後は陸上自衛隊市谷駐屯地におけるクーデター扇動後に割腹自殺。時代錯誤の右翼思想など

映画ノート③ 三島由紀夫が剥製人形役を演じた耽美的カルト映画『黒蜥蜴』

原作は、江戸川乱歩の明智小五郎シリーズの一編を三島由紀夫が戯曲にしたもの。 この作品は、基本的に伝説の「シスターボーイ」美輪明宏を観る映画なので当然社会性や思想性などの類はゼロですが、そこは、三島由紀夫+深作欣二ですから単なる探偵映画には終わらず、乱歩のエログロ猟奇趣味に耽美的かつ退廃的な味付けを施した カルト・ムービーに仕上がっていました。 シャンソン「メケメケ」や自ら作詞作曲した労働歌「ヨイトマケの唄」でスターになった美輪明宏は、当時32歳。