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職域接種でワクチン廃棄を減らすためにやった施策まとめ

はじめに

2021年8月現在、ワクチン接種を加速させるための施策として、企業が主体となってワクチン接種を行う「職域接種」が行われています。職域接種の実施にあたっては、最低2000回以上の接種(1人あたり2回接種するため、1000人以上への接種とほぼ同義)をすること、マイナス20℃の専用フリーザーを使うためにブレーカーが落ちない独立電源を確保すること、ワクチン解凍に必要な2℃〜8℃の安定した温度管理ができる冷蔵庫を確保すること、ワクチン納品依頼〜受取〜接種実績登録まで主体的に協力すること等の様々な制約がありますが、制約さえ満たすことができれば、企業規模や業種業態を問わず申請できた(新規申請受付は終了したため過去形にしています)ことが特徴です。

自己紹介をします。私は現在、有志の中小企業約200社で集まり、都内で共同の職域接種機会を確保するという企画の発起人兼責任者をやっています。企画の紹介は本記事の目的では無いため、自己紹介はここで終わりにします。

さて職域接種では、ワクチン廃棄や、余剰となった職域接種用ワクチンの自治体への提供などがニュースを騒がせているように思います。厳格な温度管理や在庫管理が必要にも関わらず、ワクチン接種の経験者がいない一般企業の総務、労務担当者が突然数千人分のワクチンを扱うことを想定しているような制度ですから、職域接種の各企業担当者は日々試行錯誤をしていると思われます。しかし、自治体接種や大規模接種と異なり職域接種ではその制度の仕組み上廃棄せざるを得ないケースがあるのも事実です。

そこで本記事では、ワクチン廃棄が減ることを願い、数千人にワクチンを提供したことで分かったワクチン廃棄防止の現実的施策を紹介したいと思います。主に企業が担当すると思われる接種希望者の減少または予約キャンセルといった予約管理に起因する廃棄を防止するための施策をまとめています。読者は職域接種を実施する企業・大学の担当者あるいは自治体の接種担当者の方を想定しています。そのため、ワクチン保管時の温度管理ミスや電源トラブルによる廃棄や、医療機関が行うワクチン接種時に様々な要因から発生する廃棄(シリンジ落下や不良品等)の対策については言及していませんのでご了承ください。
※職域接種ではモデルナワクチンのみを取り扱うため、解凍方法が異なるファイザーワクチン「コミナティ」にはそのまま適用できない箇所も一部ありますのでご注意ください。

余剰ワクチンが100人分以上のケース

職域接種においてまず重要なのは、精度の高い接種希望者リストを作成し、未来のワクチン在庫と合わせること、すなわち在庫管理です。そして廃棄を出さないためには、接種希望者がワクチン納入予定数をある程度上回る状態にしておく必要があります。

職域接種では申請時に最低1000人×2回の接種が必要になることから、申請企業の多くでは接種希望アンケートを実施し、正確な希望人数を集計した上で、1000人以上分のワクチンを100人単位で申請していると思われます。
※モデルナワクチンは100人分(10バイアル)が1箱に入って届くため、100人未満の端数申請はできません。

しかしながら、申請前に正確な希望人数を集計し、その人数のままで職域接種を申請してしまうと、ワクチン廃棄の可能性がいきなり高くなるという性質が職域接種にはあります。接種を希望する個人は、職域接種自体を希望しているわけでは無く接種ができれば良いので、大規模接種や自治体接種でより早く打てるならば辞退するという現象が起きます。したがって職域接種では、希望者集計から日数が経つほど自治体接種が進み、参加辞退が発生するという仕組みになっています。

本論から逸れますが、これを無責任とする考え方もあるようです。個人的には、感染防止の観点から、早く打てるところで打つことが大事だと思いますし、職域接種以外でもっと早く打てる機会を得た個人に対して、職域接種側でアンケートに回答してしまったという理由だけで1回目接種の辞退を禁止し接種を遅らせる行為は、職域接種という施策そのものに不確実性がある以上、望ましくないと思っています。
※共同職域接種ではこの考え方から、参加希望数提出後〜接種数日前の予約締切日まで、参加辞退を禁止せずに辞退連絡をもらう運用にしていました。結果として当初の希望数約5000人に対し20%近い約1000人程度が辞退しましたが、その分、キャンセル待ちで参加を希望していた他の企業等に接種機会を提供しました。
※職域接種申請後〜予約日時確定前の辞退を想定しています。予約確定後の辞退やキャンセルは、やむを得ない事情を除き許されるべきではないと思います。また、他に迷惑がかかる二重予約の放置は徹底して禁止すべきです。

話を戻します。先述の通り、職域接種では一定割合の辞退が発生する可能性があるため、それを考慮に入れ希望数を決める必要があります。取れる対策は、①希望数より少なく発注するか、②参加可能範囲に段階を設けておく、となります。なお申請当時は厚生労働省のアナウンスがまだ出ていなかった為考慮に入れていませんでしたが、③調整可能な2週目以降の発注数を辞退に合わせて減らす、という方法も現在は提供されています。以下、個別に説明します。

①希望数より少なく発注する
非常にシンプルでなやり方です。2000人の希望があった場合に、10%の辞退を想定して、1800人で申請するというものです。辞退割合の読みが重要になります。ただし、辞退割合が読みよりも低かったケースを想定し、接種希望アンケート時に、「必ず打てるとは限らない」という期待値調整をしておく必要があるのが特徴です。ただ2021年8月現在、職域接種の新規受付は終了してしまいましたので、もうこの方法は使えません。

②参加可能範囲に段階を設けておく
職域接種では、接種希望者の本人確認ができ、運営企業側で一人一人の予約管理ができる限り、役職、雇用形態、所属先等による制限はありません。従って、大きく分けて以下のような範囲設計が可能となります。なおこれら全ての範囲は、申請ルール上問題ないことを確認しています。すなわち職域接種では、誤解されている方も多いのですが、対象者一人一人を管理でき接種計画を作成した上で従業員数を超える申請をすることは制度上問題ないとされています。

デフォルト枠。申請企業の役員、従業員のみ(正社員、契約社員、派遣社員、パート、アルバイトなどの雇用形態、あるいは役職での区別はNGとされています)。これが一般的と思われます。

期限枠。元々募集していたデフォルト枠等の範囲にいる方で、期限内に申し込みが無かったものの、後から打ちたいと依頼が来た場合に可とするケースです。職域接種の希望確認アンケートは、おそらく2〜3日程度の厳しい期日で実施されていると思われますが、その間に既往歴のある方がかかりつけ医に接種について確認するのは難しいでしょうし、たまたま休暇を取っていたメンバーなどがいれば、アンケートに気付いていないことも考えられます。

同居枠。同居の親、子、兄弟なども可とするケースです。家庭内感染は職場内感染に繋がる可能性がありますので、同居家族までを対象範囲にしているケースも多く見かけました。

親族枠。同居を問わず、3親等以内の家族親族までを可とするケース(3親等に限りません)です。このあたりからは、もはや福利厚生的性質に近いと思います。

取引先枠。職域接種に未参加の取引先、下請企業等の従業員の参加も可とするケース(取引先の家族範囲も設計可能)です。一定規模以下の取引先というように、制限をつけているケースもあります。従業員よりも取引先の出入りが多いような事業環境では、この枠でまとめて職域接種を実施できると感染防止に繋がると考えられます。投資先や株主への提供するケースもあります。

ユーザー枠。業界団体、あるいはプラットフォーム系サービスなどを運営する会社において、その加盟企業、加盟ユーザーやシェアワーカーやギグワーカーの参加も可とするケースです。

地域枠。接種会場と同じビルに入居している企業や近隣の企業、住民などの参加も可とするケースです。入居者向け案内や電話での参加勧誘がありえます。

これらの範囲まで接種を広げられることを把握しておけば、例えば、デフォルト枠と家族枠のみで接種希望数を集計し申請した上で、予め期限枠、親族枠、取引先枠とユーザー枠に、辞退発生時のキャンセル待ちを案内するような取り組みなども可能となります。基本的にはこの「②参加可能範囲に段階を設けておく」をしっかり運用していれば、10%規模の辞退でも対応できると考えられます。

ただし、範囲拡大には2点留意点があります。費用、そして個人情報管理です。

まず費用について。接種を担当する医療機関への費用に関しては、1接種あたり2070円(税抜)が医療機関に直接支給されるため企業視点では無償依頼可能なケースが多いように見受けられます。しかし、会場利用費、運営スタッフの人件費(自社スタッフだとしても)、パーティションや巨大扇風機などの備品購入費といった費用は多かれ少なかれ発生します。範囲を広げる場合は、運営費用を誰が負担するのか?という話とセットになりますので、事前にその点を取り決めておく必要があります。
※職域接種では、接種を受けた個人から費用を徴収することは禁止されています。1社で運営する場合は全て会社経費で処理となり、取引先を含む複数社から参加する場合は、1人あたりいくらといった参加費用を企業に請求する運用や、終了後に各社の参加人数ベースで費用を按分負担する運用などが考えられます。

次に個人情報について。自社に所属する役員、従業員のみを対象にする場合は、入社時に本人確認も済んでいますし、氏名、メールアドレスといった予約に必要な個人情報も予め把握していますので大きな問題はありません。しかし自社に所属しない方を受け入れる場合は、新規に個人情報の取得が発生します。職域接種を実施する全ての企業で、医療機関のような厳格な個人情報管理体制が整っているとは考えにくいため、家族や取引先の接種を受け入れたくても、職域接種のようなスピードが求められるプロジェクトでは現実的に個人情報管理コストが重すぎてできない、ということもありえます。社外の方を受け入れる場合は、専用の個人情報管理の同意を取得し、誰が個人情報にアクセスできるか決め、他社の場合は必ず連絡が取れる方か確認するなどの手間も増えますので、個人情報取扱責任者等と入念な設計が必要です。

③調整可能な2週目以降の発注数を辞退に合わせて減らす
職域接種のワクチン納品では、V-SYSというSalesforceベースの発注管理システムが利用されています。V-SYSを利用したワクチン発注は、月曜日〜日曜日までを1つの週の単位として、N週にワクチンを接種する場合、下記のように進むのが特徴です。
N-2週: 火曜日までに、N週に接種予定のワクチン数を発注→木曜日以降、ワクチン納品数が決定される
N-1週: 月曜〜日曜のどこかでワクチンが納品される
N週: 前週に納品されたワクチンを使って接種を実施する

上記のN-2週〜N週までの発注を毎週繰り返しますので、例えば、以下の例のような納入予定数調整が可能です。

例:
申請時: 3200人で申請し、毎週800人接種予定
申請〜初回納入までに数週間が経過し、その間に120名が辞退して希望者は3080人に減少
初回納入: 800回分(初回のみ数量調整不可)
2回目の納入: 800回分
3回目の納入: 800回分
4回目の納入: 
②で追加可能な範囲で希望者が120名以上いる場合→変更せず800回分
②で追加可能な範囲の希望者が100名未満の場合→辞退に合わせ数量調整し700回分で納品。20名分のワクチンが余ると分かるので、キャンセル待ち向けに案内する
※予備バイアルを無視しています。会社によっては、落下事故等のリスクヘッジのため、予備バイアルを用意するケースもあるようです。

つまり、V-SYSで2週目以降納入予定数を減らす調整を行えば、接種希望者の辞退の影響は理論上100人未満に抑えることができ、保管トラブル等の大規模な廃棄リスクを減らすことができます。
※翌週に必要となる最低限のワクチンしか在庫を持たないことが、一番の廃棄リスク低減策です。

上記①〜③が、余剰ワクチンが100人分以上出る場合にできる施策です。

余剰ワクチンが10人分以上100人分未満のケース

続いて、バイアル単位の廃棄を出さないための施策を紹介します。

具体的施策に入る前に、モデルナワクチンの解凍の仕組みについて説明します。モデルナワクチンは、1箱100人分が納品単位です。1箱あたり10バイアル(容器)が入っています。1バイアルには5mlのワクチンが入っており、1人0.5ml×10人分の注射器を1バイアルから作成可能です。

専用フリーザーまたは冷蔵庫から出して常温にしたワクチンは、翌日以降再利用ができません。逆に言えば、専用フリーザーまたは冷蔵庫からバイアルを出さなければ、翌日以降も利用可能です。従って、接種日に常温にするバイアル数は、実際に接種する人数(予約人数ではない点に注意)を10で割り、小数点以下を繰り上げた本数になれば、バイアル単位の廃棄は発生しません。

例: 
予約人数: 400人
実際接種人数: 386人(14人は何かしらの理由で会場に来なかった)
必要バイアル: 39本(389/10=38.6を繰り上げ)
廃棄ワクチン: 4人分
※キャンセル待ちの当日補充を行わない場合


これだけを見ると、バイアル単位の廃棄なんてそうそう出ないのでは?と思うかもしれませんが、「注射器の準備までにかかる時間」と「当日予約キャンセル」を考慮に入れる必要があります。もし、接種希望者が受付に来てからフリーザーにあるバイアルを出すことが可能で、かつ、当日に予約キャンセルが1人も無ければ、数をピッタリ合わせることは全く難しくありません。

注射器の準備までにかかる時間について。モデルナワクチンの準備にあたっては、解凍時間として、2℃〜8℃で2時間30分以上かけて解凍したのち15分以上かけて常温に戻す時間、または、15℃〜25℃で1時間以上かけて解凍する時間が必要です。この解凍に加えて、バイアルから吸引を行い注射器を作る作業時間もかかります。接種会場では、接種希望者が来るよりもずっと前からこれらの準備をしますので、会場に来る残りの人数を予想し、前もって注射器を用意しておかなければなりません。
※これらの作業は通常医療機関が行うと思いますが、そのような作業時間が発生することは企業担当者として把握すべきと思います。

当日予約キャンセルについて。どんな接種であろうと、必ず当日予約キャンセルは発生します。急な体調不良、PCR検査陽性または濃厚接触者判定による外出禁止、単純なド忘れなど、理由はさまざまです。共同職域接種の会場では、平均して0.5%〜1%程度の当日キャンセルがありました。前日までのキャンセルが可能で、かつリマインドメール配信を実施していれば、当日キャンセルが10%を超えるというのはまず考えにくいと思われます。

従って実務としては、90%相当のバイアルは悩まずに順次出していき、ラスト1時間〜30分あたりのタイミングで、あと何バイアル出すか、キャンセル人数およびペースをを見て企業担当者、医療機関担当者で相談して判断する必要があります。もし予約数に対するリアルタイムの来場数計測をやっていない場合は、バイアル単位の廃棄を防ぐ難易度が格段に上がります(個人的には、ほぼ不可能に近いと思います)。
※2℃〜8℃での冷蔵庫内解凍を行う解凍方式を想定しています。マイナス20℃フリーザーから冷蔵庫を経由せずに解凍する方式を採用する場合は、ラストから3時間以上前に判断が必要なため、難易度がぐっと上がります。

例:
予約人数: 400人
接種実施時間: 計5時間
1時間あたりの来場予定人数: 80人(400÷5時間)
最初の4時間での来場人数: 304人
遅刻連絡あり: 6人
遅刻連絡なく予約時間に来ていない: 10人

この場合、320人(4時間)の予約に対し10人無断キャンセルと判断し、ラスト1時間でさらに追加で最低3人の無断キャンセル可能性を想定します。加えて、受付終了時刻以降の遅刻を認めない運用の場合は、遅刻者2名程度が強制キャンセルとなる可能性も考慮します。すると、最終着地385人程度と予想できますので、38バイアルまでは追加で準備し、ラスト1バイアルを出すかどうかは、医療機関が作業可能なギリギリのタイミングまでリアルタイムにキャンセル人数、遅刻人数を集計して判断します。

職域接種担当者として一番難易度が高い業務は、この「ラストにあと何バイアル出すかの材料集めと判断」だと思います。会場によっては予約管理から医療機関が担当するケースもあると思いますが、どちらが担当する場合でも、予約集団が時間にルーズなのかきっちりしているのか、時間通りに来るように会社から複数回リマインドをしているのか、当日キャンセル連絡が担当者にスピーディーに届くようになっているのか、予約時間になっても現れなかった接種希望者に対して会場サイドから連絡をしているのか、といった定性的情報は、まず医療機関側は持ち合わせていないでしょう。担当者だからこそ分かる定性的情報をフル動員し来場者数予測をすることは、職域接種担当者の必須業務だと思います。

バイアル単位の廃棄を出さないための方法は以上となります。長くなってきましたが、最後はワクチン廃棄をバイアル未満でも、つまり1本も出さないための施策について説明します。

余剰ワクチンが10人分未満のケース

難易度は上がりますが、いくつか施策はあります。全て、当日に予約を受け付けて、当日に会場に来てもらうタイプの施策となります。

まず、午前など早めのタイミングで確定した当日キャンセルを埋める場合について。大きく2つあります。

1つ目。あらかじめ、予約方法を決める際、接種予約可能な日を段階的に開放する運用にしておきます(ある週の接種は、その1週間前から予約可能にするなど)。この運用にすると、未予約の接種希望者リスト(職域接種を受けられる対象には含まれているが、まだ予約は取れていない人)が必然的に生まれますので、そのリストに対し、先着順で当日キャンセル分の予約枠開放メールを一斉配信することができます。システム都合上、既存の予約を締め切っている場合は、当日予約専用の予約ページを作ることも考えられます。ただしこの方法は、全員の予約が終わった後は使えません。

2つ目は、先述の「②参加可能範囲に段階を設けておく」で声をかけておいたキャンセル待ちリストに対して、当日キャンセル発生により予約可能になったことを配信する方法です。先着順で一斉メール配信することで、上記と同様に当日キャンセルを埋めることができます。またこの方法は、本来打つ予定であった全員の予約が終わった後でも使えます。ただし、当日キャンセルが発生すると思っていない人も多いため、「当日キャンセルがあったらメール配信をするので、打ちたい人はメールを頻繁に見るようにしてください」などと、期待値調整用の事前案内しておくことが大切です。

どちらのケースでも、先着順の予約枠開放メールを配信してから接種までに数時間はあると考えられますので、移動時間を考慮してもさほど厳しい案内ではありません。


続いて、接種終了予定時刻まで1時間を切った段階でなお、1人〜9人分の余剰ワクチンが想定される場合です。難しいように思えますが、まだ少なくとも3つ施策があります。

1つ目。あらかじめ、終了ラスト30分前にメールを配信したら、必ず20分以内に会場に来れるという人限定の当日キャンセル待ちリストを9人分作っておきます。「②参加可能範囲に段階を設けておく」で作ったキャンセル待ちリスト以外に、SNS等で一般人を呼んでおくのも手です。非現実的に聞こえますが、このリストは実際機能します。そしてこのリストさえ各接種日に作ることができれば、接種1回目のワクチン廃棄は必ず0本となります。

2つ目。当日の会場運営スタッフの中で、ワクチン未接種リストを作ります。運営スタッフの中には、スタッフとして勤務する日とは別の日に打つ予定の人が存在することが想定されますので、そういったスタッフをリスト化し、余剰ワクチンが出た場合に打つ意思があるか確認しておくと少しだけ余裕ができます。
※あくまで、たまたま未予約の場合を想定しています。9人未満の当日キャンセル対策のためだけにスタッフの接種を強制的に遅らせるよう指示することは望ましくないと考えています。

3つ目。上記の2つをしても余剰が出てしまった場合、会場付近の道端や飲食店にいる人に声をかける方法があります。わずか数名程度ですので、ビルの前を通りがかった方に声をかければ見つかる可能性があります。職域接種は接種券が無くても接種可能ですので、本人確認書類さえ携帯していれば問題ありません。

1回目接種日程においては、これら3つの施策がうまく機能すれば、大量キャンセルや当日キャンセルがあっても、バイアル単位はおろか1本単位で予約管理起因のワクチン廃棄を防ぐことができます。しかしながら、日本のワクチン接種済み割合も50%を超え、接種希望者は日々減ってきていますので、全ての施策を実行するのは難しい点もあると思います。どれか1つでも、廃棄防止に寄与できる施策があれば幸いです。

2回目接種時のワクチン廃棄について

職域接種の2回目接種時においても、1回目同様に、急な体調不良、PCR検査陽性または濃厚接触者判定による外出禁止等の理由で、キャンセルする方が一定数存在します。しかし、1回目接種と異なり2回目接種では、バイアル未満すなわち1人〜9人分のワクチン廃棄を防ぐ方法は現状存在していません。職域接種の制度は、原則として同じ会場で1回目接種と4週間後の2回目接種を受けるルールになっているため、「自社会場における2回目接種のキャンセル待ち希望者」は理論上存在しません。従って、2回目接種においては、バイアル単位の廃棄を出さない努力は可能ですが、1人〜9人単位の廃棄を出さないように努力すること自体ができません。残念ながら、職域接種の制度がそのようになっています。

ただし、例外はあります。1回目接種と2回目接種を別の人向けに同日同会場で開催している場合は、キャンセル待ち活用が可能です。ただこのケースは長期間にわたり接種をする業界団体などでしか取れないように思います。もう1つは、モデルナ2回目難民(他社の職域接種で、2回目接種日に体調不良になり接種機会を失った人)の受け入れを活用する方法です。余剰ワクチンを利用できますので積極的に受け入れたいところですが、そのような方にリーチできるリストが無いため、接種しに来てくれる対象者を見つけること自体が難しいというのが現状です。

なお、2回目接種の予約日時を1人〜9人単位で当日にずらせるような、2回目接種日変更専用のキャンセル待ちを運用すれば、確かに廃棄を出さないことは理論上は可能です。しかし、「接種間隔28日で2回接種すること」と「2回目接種でのワクチン廃棄1人〜9人をゼロにすること」を運営がトレードオフのテーブルに載せることは許されないと思います。2回目接種で1人〜9人分の廃棄が出てしまうことは、職域接種という制度の構造上やむを得ないので、制度に変更がない限りは受け入れるしかないでしょう。
※2回目接種時の余剰ワクチン活用策として、1回目接種希望者を受け入れ、2回目を大規模接種や自治体に任せられる仕組みがあれば廃棄は無くせますが、現実的には運用面を考えると難しいように思います。

さいごに

本記事で紹介した廃棄防止施策の大半は、共同職域接種の現場で本当に実行しています。ただし、先に実行した施策が上手くいった結果、実行する機会が無かった施策も参考用に掲載しています。8月から職域接種の第1回接種が始まる、あるいは始まっている企業や大学の担当者の皆様の参考になれば幸いです。
※本記事の内容は、2021年8月20日時点で公表されている「職域接種の手引」等の内容に基づき記載しています。8月21日以降に制度の仕組みが大きく更新された場合は、記載が誤っている可能性がありますので、予めご了承ください。
※本記事を参考にする際は、全てを鵜呑みにせずに、接種を担当する医療機関等と十分に相談いただくようお願いします。

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