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pinoさん

ランチの約束をしたMヨシさんは、パリ北駅近くのメトロ駅、シャトードーを待ち合わせの場所に指定してきた。

セーヌ川を挟み、左岸から右岸側へ北駅行きのメトロ線で移動した。

駅に着き、地上に出ると…エスニック色の強い看板や黒人の人達が通り沿いに行き交っている。
行ったことは無いが、多分NYのハーレムのイメージ?白人の姿は皆無だった。

アフロやドレッドヘアのポスターを貼った黒人専用のカラフルな床屋さんが通り沿いに沢山あって、自分がどこの国に居るのかしばし混乱。

メトロ出口で待ってるように言われたが、Mヨシさんの姿がない。ブラックマン達が東洋人なのに髪を栗色に染めた私をジロジロと凝視して行く。

怖くなって近くの電話ボックスに入ってMヨシさん宅に電話をかけたが、既に留守電だった。

メトロ出口と電話ボックス間を何度か挙動不審に往復していると、Mヨシさんが通りの向こうからメガネを掛け、ユルいジャージ姿に厚手の上着を着てのんびりと現れた。

15分位待たされたが、感覚的には30分以上待たされた心地だった。

「Mヨシさん❗」
「あ、mitsuyoさん、こんにちはーお久しぶり〜」

何だか今思うとニヤニヤしていた。
東京のギャラリーで個展をしていた時は、黒の細身のスーツを着てシュッとしていたのに、髪に寝癖、何となくさっきまで寝ていたような雰囲気…。

取り敢えずランチ、ということで彼のオススメの店まで着いていく。

「ここ美味しいから時々行くんです」
北駅の大通りに面したビストロのような店に入り料理を注文すると、ホテルの部屋が酷い状態なことをMヨシさんに一気にまくし立てた。

「大変でしたねぇ。この近くに僕の友人の日仏カップルが貸部屋やってるけど、良かったら見てみます?」

「えっ貸部屋!?」

食後に近くのMヨシさんのアトリエを兼ねた綺麗なアパルトマンに移動し、お土産に持ってきた羊羹と入れて貰った中国茶で落ち着いたあと、5分程テクテク歩いて別の建物に移動した。

広いアパルトマンに入るとN子さんと2歳のおしゃまな娘さんが出迎えてくれた。

N子さんは某フレンチカジュアルブランドの日本での立ち上げに尽力されていた方と聞き、少し緊張したが、Mヨシさんとはご近所付き合いの気心知れた仲らしく、靴を脱ぐ仕様のリビングでのんびりリラックスムードで迎えて下さった。

部屋数の多いアパルトマンなので、二部屋貸部屋にしていると言う。

一部屋はワーキングホリデーで来ているタカシくんが使っていて、共用のシャワー&トイレと綺麗な洗面台が二部屋の中間にあり、通りに面したもう一方の広くて明るいお部屋をどうぞ、と見せて貰った。

窓際に丸い薄緑のガラステーブルと、蚤の市で発掘したような60s風のスペイシーで可愛い椅子もあった。1泊50euro(当時のレート換算で5千円強) でよいとのこと。

「今日から使っていいですヨ」

さっき見たバスルームの鏡前にプラスチック製のおもちゃのちょんまげカツラがあった。

「ああ〜それタカシ君のよ」
「いや〜パーティーでそれ被るとフランス人が喜ぶんですよ〜」と部屋から出てきたタカシくん。

Mヨシさんとも仲良しなタカシくんは、ワーホリ中の為、語学学校に通ったり、日本料理やでアルバイトをしたり、Mヨシさんの留守中の猫の世話をしたり、マイペースでパリ生活を楽しんでいた。

…愉快そうな人たちだ。そして現地情報をたんまり持っている。

私は先払いで4日分の部屋代をN子さんに支払うと、大急ぎでサンジェルマンに戻り、薄暗いホテルの部屋を無理を言ってチェックアウトした。

確かすぐ裏手がインド人街だった気がするN子さんのアパルトマン。

フランス人のご主人はスキー旅行に出掛けていて週末に帰ってこられるとのことだった。

フランス企業のスタージュ(研修生)のN子さんの妹も同居中で、貸部屋の住人に慣れてるのか、皆さんフレンドリーだけど私を適当に放っておいてくれた。

滞在中の朝は、コーヒーとタルティーヌ(バゲットを二つに割ってバターとジャムを塗ったもの)を出して頂き(日本でも似たような朝食だった私には充分だった)初日のホテルの残念感から打って変わって、思いがけない現地生活ステイとなった。

Mヨシさんとは週末辺りにまた合流する約束をして、翌日から私もパリを精力的にぶらついた。

翌朝、ルーブル美術館回廊にあるカフェ・マルリーで食べる朝食がスノッブ感満載で素敵らしいと憧れていた私は、寝る前にお気に入りのボルドーのネイルをシコシコと塗り、早朝のルーブルへと張り切って出掛けた。(先日渋谷のパ〇コに同名のカフェを見つけたがとても系列店とは思えない...)

ドキドキしながらカフェ・マルリーに行くと回廊側でなく中のサロン側に案内された。

中庭が見えないんじゃ…と危惧したが、ボックス席状のソファーの壁面と後ろがガラス張りになっており、地下の白いギリシャ彫刻の部屋が見おろせる席のおかげで目にも麗しいpetit déjeuner(朝食)タイムとなった。

隣の席では昨晩一緒に過ごしたようなスタイリッシュな大人のカップルが眠そうに顔を寄せ合い、朝食を取っている…何てCHICなんだ。カッコよすぎ…

昨日よりも身なりを整え、キチンとメイクもして、ツボに入った場所で気取った朝食を摂りムードが最高潮に達した私は、観光客のいない静かなルーブルの中庭を探索し、ポンデザール(芸術橋)を渡り、サンジェルマンの昨日のブティックを再訪した。

ドアマンが今度はすんなりとドアを開けてくれた。昨日のショップスタッフに両開き財布があるかと聞くと、入荷しましたと念願の品を出してくれ、これまたすんなり旅の目的の1つが完了してしまった。

そのあと週末までは、欲しかった香水をパフュムリーで入手したり、ちょっと足を延ばしてベルサイユを探訪したり、そこで一緒になった卒業旅行の大学生の男子2人の買い物を付き合ったり、夕食も海外で女性1人は心許ないのでご相伴頂き、帰りも彼らの宿泊先とN子さんのアパルトマンが近いのでちゃっかり送って貰った。

ギャラリーラファイエットの免税コーナーで、自分の就職記念にお財布欲しいけどよく分かんないから選んで下さいと言われ、若者に人気のPやらGの財布を薦めたが、結局フレンチブランドでもない渋いdunhillを選んでいたあの子…。

ベルサイユで撮った写真を日本で送ってくれた際、一度電話で話してそれっきりだが、元気でいるだろうか…。

翌日に強烈な出逢いがあったので、ベルサイユとルーブル、百貨店以外は何処をどう出歩いてたのか翔んでしまった。

日曜日の朝、身支度をしているとN子さんが部屋をノックした。

「Mヨシさんが来てますヨ」

リビングでコーヒーを飲みながらMヨシさんがこれから朝市に行かない?と言う。

「途中で合流するけど、日本好きなフランス人とmitsuyoさん会って見る気ない?」

「ふんどし絞めてるヘンなフランス人がいるんだけど」

Mヨシさんがまたニヤニヤしている。

「えっ?ハァ?ふんどし…?どういうことですか?まぁ…会うだけなら…」

「よし、じゃ行こう!タカシくんも行く?じゃあ準備もあるだろうから2人とも1時間後に出発ね」

一時間後、わけが分からないままMヨシさん、タカシくんと連れ立ってマルシェ・アリーグルへと向かった。

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