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35 美沙が僕のアパートに来た。 スーツケースをがらがらとひきづって。
34 僕は、ハルがいなくなったことを拓司、美沙、早織、に連絡した。 拓司から連絡があり、僕らは個室のある居酒屋で飲むことになった。 拓司と酒を飲むのは初めてだ。 拓司はとうに成人になっているというのに。
33 僕とハルは浜辺に座り、海を眺めていた。 雨はやんで、青空が見えていた。
32 海沿いのパーキングに車を止めた。 ハルが壊れかけたワーゲンのボンネットに腰掛ける。 僕はハルにスマホを向ける。
31 僕の友達が車を貸してくれた。 彼は車好きで何台も車を持っている。 僕と同じ昭和世代だ。 僕が借りたのはフォルクス・ワーゲンのビートルだ。 黄色いビートル。 ハルはそれを見て、「ハートカクテル」みたいね。 と言った。
彼女は20世紀からタイムリープしてきた20世紀少女。 昭和の時代から来た20世紀少女。 彼女は聖子ちゃんカットだった。 ボートハウスのトレーナーを着ていて、テニスのラケットを持っていた。 彼女がこの時代の人ではないことは、僕にはすぐにわかった。 それは、マスクをしていなかったからだ。 彼女は散歩道のベンチに腰掛けていた。 ふわっと、もわっと、ぼんやりと座っていた。 それはまるで、現実に存在していないかのようだった。 彼女の座っている空間だけが、まるで異
2 彼女の名前はハルと言った。 まるで「2001年宇宙の旅」に出てきたコンピューターのようだ。 そう言えば「2001年宇宙の旅」は、20世紀に作られた21世紀の映画だ。ハルは彼女の名前にぴったりだった。
3 僕がハルのことを自然に受け止めることができたのは、僕が空想の世界を好きだからなのだろう。 僕はよくぼうっとして、色々な空想をする。映画が好きで、たくさんの映画を観る。本が好きで、たくさんの小説を読む。だから現実にはありえないことであっても、僕にはそれを受け入れることができるのだ。
4 「人の心の声が聞こえてしまうの」 とハルが言った。 「人が心の中で思っていることが、聞こえてしまうの」 とハルは言った。
5 ハルと一緒にいると、僕はノスタルジックな気分になった。 昭和の時代は、古き良き時代だった。優しい時代だった。
6 それは、まぎれもなくハルだった。 その写真に写っていたのは、まぎれみなくハルだった。 僕は思いだす。
7 ハルを20世紀に返す方法はないだろうか、と僕は思った。 だけども「バック・トゥ・ザ・フューチャー」じゃないんだから、それは無理な話だ。 ハルの時代は、まだ「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は公開されていない。ドクはこの世界にはいない。
8 「ビートルズの新曲が出たんだ」 と僕はハルに言った。 「え? ジョン・レノンは4年前に亡くなったわよね」 とハルは言った。 そうか、4年前か。ハルにとってジョンの死はさほど昔のことではないのだな、と思った。