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20世紀少女

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連載小説「20世紀少女」です。 メンバーシップ限定です。 20世紀からタイムスリップしてきた少女と僕の物語。
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20世紀少女 31

31  僕の友達が車を貸してくれた。  彼は車好きで何台も車を持っている。  僕と同じ昭和世代だ。  僕が借りたのはフォルクス・ワーゲンのビートルだ。  黄色いビートル。  ハルはそれを見て、「ハートカクテル」みたいね。  と言った。

20世紀少女

 彼女は20世紀からタイムリープしてきた20世紀少女。  昭和の時代から来た20世紀少女。  彼女は聖子ちゃんカットだった。  ボートハウスのトレーナーを着ていて、テニスのラケットを持っていた。  彼女がこの時代の人ではないことは、僕にはすぐにわかった。  それは、マスクをしていなかったからだ。  彼女は散歩道のベンチに腰掛けていた。  ふわっと、もわっと、ぼんやりと座っていた。  それはまるで、現実に存在していないかのようだった。  彼女の座っている空間だけが、まるで異

20世紀少女 2

2  彼女の名前はハルと言った。  まるで「2001年宇宙の旅」に出てきたコンピューターのようだ。  そう言えば「2001年宇宙の旅」は、20世紀に作られた21世紀の映画だ。ハルは彼女の名前にぴったりだった。

20世紀少女 3

3  僕がハルのことを自然に受け止めることができたのは、僕が空想の世界を好きだからなのだろう。  僕はよくぼうっとして、色々な空想をする。映画が好きで、たくさんの映画を観る。本が好きで、たくさんの小説を読む。だから現実にはありえないことであっても、僕にはそれを受け入れることができるのだ。

20世紀少女 4

4 「人の心の声が聞こえてしまうの」  とハルが言った。 「人が心の中で思っていることが、聞こえてしまうの」  とハルは言った。

20世紀少女 5

5  ハルと一緒にいると、僕はノスタルジックな気分になった。  昭和の時代は、古き良き時代だった。優しい時代だった。

20世紀少女 6

6  それは、まぎれもなくハルだった。  その写真に写っていたのは、まぎれみなくハルだった。  僕は思いだす。

20世紀少女 7

7  ハルを20世紀に返す方法はないだろうか、と僕は思った。  だけども「バック・トゥ・ザ・フューチャー」じゃないんだから、それは無理な話だ。  ハルの時代は、まだ「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は公開されていない。ドクはこの世界にはいない。

20世紀少女 8

8 「ビートルズの新曲が出たんだ」  と僕はハルに言った。 「え? ジョン・レノンは4年前に亡くなったわよね」  とハルは言った。  そうか、4年前か。ハルにとってジョンの死はさほど昔のことではないのだな、と思った。

20世紀少女 9

20世紀少女 10

20世紀少女 11

11  あのウィルスの影響で、僕らはつらい日々を過ごしてきた。  かつては当たり前だったことが当たり前ではなくなり、色々なことが制限されてきた。  思うがままに生きたい。自由に生きたい。  それがようやく叶うのだ。

20世紀少女 12

12  新しい年になった。  正月早々、地震があった。  ハルは阪神・淡路大震災も東日本大震災も知らない。  日本沈没は、映画の中の世界だった。  日本は地震に苦しめられてきた。ハルの知らない世界で。

20世紀少女 13

13 「これ聴きたい」  ハルは大量にある僕のレコードの中からそれを選んだ。  それは、「イエロー・マジック・オーケストラ」というアルバムだった。  テクノバンドであるイエロー・マジック・オーケストラのデビューアルバムだ。