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短編小説

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僕の短編小説集です。
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#映画

蜘蛛女のキス

「私ね、自分から友達になって、って言えないタイプなのよ。だからいつも待っているの」  と彼女は言った。 「わかるよ。僕もそうだから」  と僕は答えた。  彼女と僕は図書館で出合った。  僕は以前から図書館でたびたび彼女をみかけていた。そしていつもの子だなあと気になっていて、僕はいつも彼女を見ていた。  彼女はメガネをかけていて、とてもおとなしそうな文学少女に見えた。  僕はたびたび彼女と目が合った。それは僕が彼女のことをいつも見ていたからだ。  彼女の読む本が、僕は好きだ

君に、胸キュン

「イタリアの映画でも観てるようだね」  と僕は彼女に言った。 「何それ。イタリア映画が好きなの?」  と彼女は僕に問い返した。 「うん」 「イタリア映画ってどんなの?」  彼女は素朴な疑問を僕に投げかけた。 「ニューシネマ・パラダイスとか」 「映画通が好きなやつね。何か聞いたことある。観たことないけど」 「それから昔はマカロニ・ウエスタンっていうのが流行ったんだ」 「何それ」 「イタリアで作られた西部劇だよ。そもそも西部劇ってアメリカの西部開拓時代の話なんだけど、それがな

予告編で泣く男

「ねえ、今度映画観に行かない?」  僕は総務課の瑛子に唐突に誘われた。  瑛子とは今までほとんど話をしたことが無かったが、誘われた理由はなんとなくわかる。  僕が「予告編で泣く男」だからだ。  僕は映画の予告編を観て泣く。  僕は映画が大好きで、よく一人で映画を観にゆく。そして予告編で泣くのだ。  僕はたくさんの映画を観るし、小説を書いたりする。そのせいで、物語の一部分を観ただけで、物語の展開、登場人物の心情、結末、などが想像できてしまうのだ。もちろん実際の映画は僕の想像

映画とスタバ

「ねえ、今度の日曜日、映画を観に行かない?」  と僕は彼女を誘ってみた。  やってみた企画、みたいなノリだ。  いや、違う。ユーチューブだとかなんだとか僕はやっていないし、それは単なる気まぐれでしかなかった。 「え、何でよ?」  と彼女は驚いた表情をして僕を見た。そりゃあそうだ。そうなるよね。想定内だ。その通り。それが正解。だって彼女とはろくに話をしたことがないのだから。 「いや、ただ映画を君と一緒に観たいと思って」  と僕は続けた。 「映画は観るけど何であなたと一緒に