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*読了20冊目*『奇跡の教室』

『奇跡の教室 エチ先生と『銀の匙』の子どもたち 伝説の灘校国語教師・橋本武の流儀』伊藤氏貴著 を読んだ。

2012年に発行された本である。
10年以上前にたまたまこの奇跡の授業に関する特集を何かのテレビで見た。
当時すごく感動したのたが、歳月が経ち、細かいところを忘れてしまったので本を取り寄せて読んでみた。
そして前回テレビで見た時以上に感動してしまった。

エチ先生は中高一貫教育の灘校で国語の教師をしていた。
中学校の3年間の授業を教科書を使わずに『銀の匙』という中勘助の小説、ただ一冊だけをひたすら丁寧に読み解いていくという型破りな授業をした人である。

実際にはエチ先生が徹夜でガリ版刷りしたプリントを使って毎回授業をしていくのだが、このプリントがとにかくすごい。
先生の情熱がこれでもかというくらいに詰まっている。
そこに生徒が授業で体験した色々なことを書き込んでいき、3年分の実習のプリントは中学卒業時に各自好きな表紙をつけて紐で綴じて一冊の本になる。
このお手製の冊子を生徒のほとんどが一生の宝物として大事に持っているそうである。

授業の中身は徹底的に体感型だ。
『銀の匙』の小説の中に凧あげのシーンが出てくれば、みんなで凧を一から作って教室の外に飛び出して行ってあげてみる。
百人一首が出てくれば百人一首大会をやってみる。
知らない駄菓子が出てくれば実際に見て触って味わってみる。

最初はとっつきにくいと思われた古い仮名遣いの小説が、卒業するころにはひとつのわからない単語も無いくらい親しみの持てる本になっている。
そして驚くことに、このエチ先生の授業を受けた子どもたちがその後驚くほどの成長を遂げるのである。
それまで平凡な高校だった灘校を、東大の入学者全国一位に押し上げたのもこの頃のことである。それだけに留まらず、エチ先生の薫陶を受けた生徒たちの社会に出てからの活躍ぶりもすごい。
瑞々しい感性を持った思春期に、さらに五感を研ぎ澄ませる方法を学ぶということが、どんなに人生を輝かせるか。

エチ先生が『銀の匙』の作者である中勘助氏と、この授業をきっかけに親しくなり文通を続けていたというのも驚いた。
生徒たちの感想も毎年作者に届けられていたそうだが、それは作者にとって望外の喜びだったのではないか。
エチ先生のこの小説に対する愛情が並々ならぬものであったがゆえに、こんなにも意欲的な授業が出来たのだと思う。
これは『銀の匙』も読まなくてはと思った。


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